微かな冷気を頬で感じながら微睡みに身をゆだねていた。 時刻は日付を変えてずいぶん経つ。 完全に眠りの底につく、ほんの少し前。後ろから少しだけ乱暴に腰を引き寄せられた。 身体にまとわりつく彼の指先は、服ごしでもわかるほど冷たい。 last scene ───midnight KISS... 「寒い?」 冷たい手にそっと触れて見上げるようにして後ろを振り向く。 しかし彼は私の首筋に顔をうめているから、その表情はまったくうかがうことができない。 「ロック?」 沈黙が続けば続くほど、だんだん不安が込み上げてくる。 呼吸をしているのかさえわからないくらい、彼は微動だにしなかった。 もう一度名を呼ぶと、さらに強く抱き締められた。 「何か夢でも…」 「こわかった」 「え?」 「お前が、どっかにいったかと思った…」 耳元で、苦しげな声が響いた。 「目を開けたら、真っ暗で、気配さえわからなくなって…」 どこか彼らしくないと感じてしまうほど弱々しい声。 未だ見たことのなかった彼の姿。 抱き締めてくる彼の腕を剥がそうと手を添え力をいれるが、彼は一向に離してくれる素振りをみせない。それどころか、さらに力がこもる。 「ロック…ちょっと、苦しい…」 そう呟けば、少しの躊躇の気配のあとに腕の力が緩んだ。 それを見計らって、身体の向きを彼の方にむける。 驚いたような彼の瞳と視線がかち合った。 罪ばかりを背負った女を優しく受けとめ、不安になればそれを埋めてくれるようにして抱き締めてキスをしてくれた。 彼がいるから、今、自分が生きているのだと思う。 言葉にはできないけれど、誰よりも彼を想っている。いつも。 もう、彼なしでは。 だから、彼がくれる想いに何かで応えたい。 私が、私だけが彼にしてあげられる何かで。 反射的に両手を伸ばし、彼の頬に触れ、耳を指先で擽り、その鋼色の髪に指を差し入れて自分の胸元に頭を抱き寄せた。 彼の身体が強ばったが、その一瞬あとには委ねるように、その腕のなかにおさまった。 いつもと逆の態勢。 背に、彼の手が添えられるのを感じて、なぜだか涙が零れ落ちそうだった。 しばらくすると、微かな寝息が耳に入ってきた。 少しだけほっとして彼の顔を覗き込む。 強い意志を持つ瞳は閉じられ、穏やかな表情。 それを確認すると笑みが零れ、不本意ながらも薄い彼の唇に視線が行った。 「おやすみなさい」 囁いて、何の躊躇いもなくその唇にキスを落とした。 キスは、きらいじゃない。 自分からするのも、いやじゃない。 少しずつ、 彼に応える何かが増えていったのなら。 END ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ めずらしく、きちんと形づくられたテーマが私のなかにありました。 思うように筆は進みませんでしたが楽しかったです。 企画のなかで連載をするのは初めてだったのですが、とてもいい経験になりました。 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。 駄文ではありますが、すべてのロクセリラバーさんに捧げます! …厚かましくも後書きなんか書いてしまい、すみません;(本当は語り足りないっす/笑)
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