短編部屋二号館
□shade
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そうだ、外に出ようか。
こんな激しい雨の日に望んで外出するような人はあまりいない。だから、知人に見られて気まずい思いをする心配も少ない。
パジャマのまま玄関に向かう。特に意味はないけれど、雨に打たれていたい気分だ。そして雨と一緒に、このもやもやした感情も流れてしまえば尚更良いと思う。
髪をくしゃくしゃいじりながら、裸足のまま玄関のドアを開けた。外は酷い雨だったけれど、それが玄関にまで吹き込んでくる様子はなかった。
安アパートの一室を出て、玄関の鍵を開けっ放しにしたままふらふらと歩みだす。三ヶ月くらい伸ばしっぱなしにしていた髪は、雨に濡れると顔や項に張り付いた。そろそろ切りにいこうかと思いながら、僕は激しい雨を降らす空をゆっくり見上げた。
分厚い雲に覆われた空は、本当に青いのだろうか。この雲が消えても、空は延々と鉛色のままだったりしないだろうか。
眼鏡を伝って目に雨が入ったけれど、特に気にしなかった。冷たい雨は身体の表面から体温をどんどん奪っていったから、だんだん寒くなってきた。こんな馬鹿なことをしている自分が悪い、それは解っているけれど。
もう少しだけ、こうしていたい。身体を伝って流れ落ちる雨の感覚は、結構好きだから。自分の体温でぬるくなる雨水が、不快なくせに心地良いから。
「馬鹿発見ー」
「馬鹿じゃない」
少し低めの、どこか懐かしい声。思わず言い返しながら振り返ると、軽く日に焼けた長身が大きな雨傘を片手に立っていた。
見知った顔に、懐かしい笑み。彼はもう少年ではない。すでに青年になっている。
昔はいつも行動を共にしていた彼は、高校の卒業を境にしてお互いに一人暮らしをはじめたのをきっかけに会うことも少なくなっていた。
城山康明、まだ二十三歳。彼より半年以上誕生日が早い僕は、二十四歳。
最後に会ったのはおそらく三年くらい前だろう。成人式以来、直接会ったことはなかったと思う。