短編部屋二号館
□縁側
3ページ/4ページ
少し俯いた彼女のうなじは白くなまめかしい。
そして徳利に注がれる彼女の視線は、優しく柔らかい春の日差しのようだった。
「弥生。もしこれから、良家からの縁談があったら受けるか?」
何気ないふりをして訊ねながら、弥生は見ずに梅の木を見た。
梅の木で戯れる二羽の目白が、のどかな日差しの中で心地良さそうに鳴いている。
絵になる景色だ。この景色に、弥生を入れたらもっと良い。
「まあ、野暮なことを。私は、縁談など受けません。成安さんの傍で、こうしてお酒を酌むことが何より楽しいのですから」
柔らかな声に振り返ってみれば、伏せた目をゆっくり上げて俺を見る弥生と目が合った。
俺は弥生を真っ直ぐ見返して、それからふっと笑う。杯を持っていないほうの手で、そっと弥生の肩を抱きながら。
ちびちび酒を飲みながら、縁側で寄り添って春の景色を眺める。
となりに寄り添うのは、優しくしおらしい娘。良家の縁談より俺の隣にいることを望む、この娘の何といじらしいことだろう。
同じ縁側で暖かな春の陽気を感じながら、同じ梅の木を見るしあわせ。
美しいものを一緒に見て、それだけで心が通じ合える関係というのもなかなか乙なものだ。
休日の贅沢が、また一つ増えた。