短編部屋二号館

□縁側
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 少し俯いた彼女のうなじは白くなまめかしい。
 そして徳利に注がれる彼女の視線は、優しく柔らかい春の日差しのようだった。
「弥生。もしこれから、良家からの縁談があったら受けるか?」
 何気ないふりをして訊ねながら、弥生は見ずに梅の木を見た。
 梅の木で戯れる二羽の目白が、のどかな日差しの中で心地良さそうに鳴いている。
 絵になる景色だ。この景色に、弥生を入れたらもっと良い。
「まあ、野暮なことを。私は、縁談など受けません。成安さんの傍で、こうしてお酒を酌むことが何より楽しいのですから」
 柔らかな声に振り返ってみれば、伏せた目をゆっくり上げて俺を見る弥生と目が合った。
 俺は弥生を真っ直ぐ見返して、それからふっと笑う。杯を持っていないほうの手で、そっと弥生の肩を抱きながら。


 ちびちび酒を飲みながら、縁側で寄り添って春の景色を眺める。
 となりに寄り添うのは、優しくしおらしい娘。良家の縁談より俺の隣にいることを望む、この娘の何といじらしいことだろう。
 同じ縁側で暖かな春の陽気を感じながら、同じ梅の木を見るしあわせ。
 美しいものを一緒に見て、それだけで心が通じ合える関係というのもなかなか乙なものだ。

 休日の贅沢が、また一つ増えた。
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