オッドアイと元素記号

□オッドアイのバースデイ
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 入学式を終えて、寮長の話を聞いて、それから何をしたっけ?
 忙しすぎて覚えていない。けれど布団に入るまでに、キャスコの部屋を訪ねてきた男子が何人居たかは覚えている。全員、見るからに日本人ではないキャスコを物珍しがっていたようだった。
 彼らの相手を終えて、ベッドのはしごを上った。
 キャスコはこれから、十六歳になろうとしている。


Odd eye's birthday.



 四月六日、深夜十一時五十九分。キャスコは携帯の時計を眺め、じっとしていた。
 二段ベッドの下からは、今日同室になったばかりの男子の寝息が聞こえる。
 大人しい感じの男子で、英語が得意だと言っていた。彼はイタリア語を勉強中だというから、きっと仲良くやっていけるだろう。
 入学前は不安でいっぱいだったが、今は希望の方が大きい。けれど、新しい環境にはなかなか慣れられるものではない。
 だから、寝付けずに携帯を眺めているのだった。待ち受けは、旅客機の写真。これを操縦するために、キャスコは勉強していくのだ。
「あっ」
 旅客機の写真を眺めていると、不意に時計の数字が全てゼロになった。
 日付は四月七日。今日からキャスコは、十六歳だ。
「ハッピーバースデー、キャスコ」
 一人で呟いて、空しくなって一人で笑う。
 他の部屋では多分、この時間まで起きて遊んでいる生徒もいるだろう。
 けれど、キャスコの同室は比較的真面目そうだから、そうもいかない。
 耳を澄ませば、微かに隣の部屋から笑い声が聞こえた。そのうち寮長が来て怒られるのだろうが、彼らは楽しそうだ。
 隣の部屋に遊びに行ってみようか。さっきあの部屋から男子が一人遊びに来たことだし、こちらから遊びに行ってみても変に思われはしないだろう。
 そっと布団を抜け出し、二段ベッドのはしごを降りようかとしたその時。
 ベッドに放置していた携帯が、大音量で着信音を奏で始めた。
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