短編部屋二号館

□廃墟
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 この空間なら、僕に似つかわしいと思った。
 洗練された都会の街も、長閑な田舎も僕には似合わない。
 誰も人がいない、誰にも必要とされない場所が、僕に一番似合う場所。
 捨てられた場所。人が住むべきではない場所。
 そういうところが、僕の居場所なのだ。



   廃墟  



 山奥で、人が誰も来ない場所。そんな場所に僕はきていた。
 ここは美容室か何かだったのだろうか。割れた鏡が朽ちた床の上に散らばっていて、鉄の骨格がむき出しになった椅子が無残に錆びていた。ガラス張りだったはずの場所には何もなく、ガラスを支えていたであろう柱にはツタが巻きついている。
 朽ちた木製の床を踏み抜きそうになり、僕は注意を払いながらそっと奥のほうへ向かう。誰かが生活している痕跡は無い。
 上を見上げれば、鉄筋と枯れ枝が見えた。屋根は朽ちてなくなったらしく、青空がとても芸術的な感じに枯れ枝と鉄筋の間から覗いていた。その場に腰を下ろすと、脆い床が危うい音を立てた。


 誰も来ないところに来たかった。
 僕は逃げたかった。
 全てのものから解放されたくて、僕はここに来た。
 けれど僕は、また間違った方向に進もうとしているのかもしれない。
 ならばいっそのこと、止まってしまえ。

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