「お前とここで夜営するってザックスに連絡する。」
ミシェルはそういうと無線を手に話しだそうとしたが、クラウドの表情を見て苦笑いしながら一言付け加えた。

「連絡がなくてお前が帰って来ないのと、オレと一緒にいるのと、どっちがヤツが心配すると思う?」

クラウドは顔をそむけた。何を子どもみたいな事考えてたんだ・・・
逃げるのはナシ。

「おお、ザックス、心配かけたな。え?オレのことは心配してなかった?ひでえなあ・・遅れちまったから後方で夜営する。雪降ってきたしな。参ったよ。雪キライなんだ。そうそう、今クラウドと一緒だ。アイツも無傷だから安心しな。明日は追いつく。じゃあ。」

ミシェルはクラウドに、「お前も連絡したら?」と言いながら、夜営の位置を決めるため辺りを見回した。
クラウドは重い手で無線のスイッチを入れた。

「ザックス?うん、オレ。無事だよ。かなり遅れた。雪も降ってきた。ミシェルと会ったんで、ここで夜営する。明日には追いつく。ザックスも気をつけて。」

無線の向こうのザックスはとても優しくて、無事を確認して心から安堵してるようだった。
ザックスの暖かい言葉が胸にしみこむ。何をオレはそんなに意識してるんだ。意識すればするほど事がまずくなるのに。

ミシェルがクラウドを呼ぶ。

「お〜い!この辺りならいいだろう?もうこの辺はウータイ兵もいないし。」ミシェルが廻りを藪で囲まれた一角を足でならしてる。

クラウドは場所を確認すると、
「いいんじゃないですか?今夜は雪だし、風が強まると厄介だから、テントの口は風下に向けましょう。」
そういいながら、設営の準備を始めた。
ザックスの声を聞いて落ち着いたからか、かなり自然に行動できるようになった。

二人で協力して手早く設営し、簡易コンロに火を入れたころはもうとっぷり日が落ちていた。
雪はまだチラチラと舞ってる程度だが、たぶん今夜はこのまま積もるだろう。

簡単なものとはいえ、暖かい食べ物は食べるとほっとする。
レトルトのシチューとやたらに甘くてナッツがぎっしり入った乾パンを食べると疲れがでてきた。

「クラウド、体が冷えたろう?一口どうだ?」ミシェルは荷物から金属の平たいボトルを取り出すと、クラウドに投げてよこした。
蓋を開けると、ブランデーの良い香りが上がってくる。
思い切って一口飲むと体の芯から温まってきた。

「ありがとうございます。」クラウドはボトルをミシェルに返した。
急速に酔いが回ってくる。ほんの一口飲んだだけなのに。

クラウドは膝を抱えて頭をつけた。そういえば初めての二日酔いはミシェルと飲んだ時だった。



ミシェルと食事の約束をしてしまった後、後悔する気持ちと少々ヤケになってる気持ちが交錯し、出かける時間ギリギリまで行くか行かないか迷った。それでも一人でポツンと部屋にいるのに耐えられず、思い切って待ち合わせの場所に出かけた。

待ち合わせ場所にはすでにミシェルがいて壁に寄りかかって煙草を吸っていた。
そのシルエットがやっぱりザックスに似ていて、また胸苦しい気持ちがこみあげてきた。
ミシェルはクラウドを認めると、
「やあ、よく来たね。」と言い、肩を抱き寄せた。
あまりに自然な動作だったので、ザックスが肩を抱き寄せる時の不自然なぎこちなさを思い出してしまった。

「緊張しなくていいさ。取って食われるとでも思ってるのか?」ミシェルが笑う。
こうやって見るとザックスとは全然似てない。
ミシェルは髪は黒いが巻き毛に近く、肩近くまで伸ばしてる。昼間見た時は後ろで一つに結んでいたが、今は結んでない。
目も二重で目じりが少し下がっていて、瞳の色以外共通点は全くない。
何が似てるのかというと、背格好が似てるのだ。身長が同じくらいで、引き締まった体つきをしている。
そう、そして一番似てるのは手だ。手はそっくりだ。
クラウドは肩に廻されたミシェルの手をしばし眺めた。

「軽くパスタかピザで一杯やろう。少しは飲めるんだろう?」
クラウドはうなずいた。
この人も明るい雰囲気で、自分はあまりしゃべらなくて済みそうだ。

連れていかれた店は洒落たリゾート風の店で、コスタ・デル・ソルに本店があるそうだ。

「オレは金髪の男の子が大好きなんだ。お前のことも知ってた。」ミシェルにじっと見つめられた。
「一度一緒に食事をしたいと思ってたんでね。今日はラッキーだった。」

クラウドは思わずぎくりとして身構えた。

「ははは!大丈夫さ、クラウドを頂いちまおうなんて思ってないさ。今のところ。」
今のところって何だ・・・

料理はとても美味しく、ワインを勧められるままにかなり飲んでしまった。
ミシェルは終始上機嫌で、よくしゃべっていた。自分が一しゃべる間に十はしゃべる。
ミディール出身で、ザックスより少し年上らしい。ウータイには行きたくないそうだ。
あんなところ行ったら風呂には入れないし酒は飲めないし、いいことないからな、と言って笑った。

「お前、ウータイに行きたいそうだな。」急に真顔になるとクラウドをじっと見たので、少しどぎまぎした。
こくりとうなずくと、
「ザックス追いかけて行くんだ・・・」椅子の背にどさりと身をあずけると、ポケットから煙草を取り出した。

言葉が継げなくなり、黙っていると、

「まず、もっと体力つけないと。そんな体格じゃダメだ。」と真面目に言われた。

「オレがトレーニングルームの主任に話つけといてやる。毎日筋力トレーニングしろ。プログラムも組んでくれる。
あと、もっと食え。朝から蛋白質をきっちり摂るんだ。ウータイなんか行ったら一日中荷物背負って山歩くかもしれないからな。」

「ザックスなら大丈夫さ。アイツは体力オバケだし、能力的にもピカ一だ。ウータイでくたばるようなヤツじゃねえ。」
ミシェルはそう言うとクラウドのグラスにさらにワインを注いだ。

それなりに慰めてもらった気がした。

帰る時、立ち上がったらふらついた。飲みすぎたようだ。
少し朦朧としてた。
ミシェルが肩をまわして抱きかかえるようにして歩いてたのは覚えてる。
自分の宿舎の近くまで送ってくれたようだ。

あと少しで寮に着くという時、灯りの届かない片隅に連れ込まれて、抱きしめられた。

「クラウドはいい匂いがする。日向の猫の毛皮みたいな匂いだ。好きだな・・この匂い・・」
だいぶ酔っていたので記憶が曖昧だが、口づけされたのは覚えてる。そして自分も口づけを返したような・・・

「これくらいいいよな?」軽く笑いを含んだ声がその日の最後の記憶だ。
次の日、激しい頭痛で目が覚めたっけ・・・




「おい!クラウド!!こんなところで寝るな!凍死するぞ!!」
肩を揺さぶられてはっと気づいた。いつの間にか熟睡していたようだ。

目を開けると、コンロの後始末も全部済んでおり歯ブラシをくわえたミシェルがのぞきこんでる。

「さ、歯を磨いて顔拭いてちゃんと寝るんだ。オレは歯だけは磨かないと気持ち悪くてな。」
いかにもミシェルらしい。

「少尉に片付けをさせてしまってすいません・・」クラウドがあわてて立ち上がると、
「いいさ、お前の寝顔じっくり見せてもらった。」と言ってミシェルが笑った。
雪はさっきより勢いを増してきた。

「クソドグーラめ・・・」ミシェルがぶつぶついいながらテントに這い入った。クラウドも急いで身支度するとテントに入った。

テント内は結構暖かく、カンテラがぼんやり光を落としている。
ミシェルを見るともう寝袋に潜り込んでもぞもぞ寝心地よい場所を探してる。
たいして緊張することもなかったと思い自分も寝袋に潜り込んでジッパーをひきあげてたらミシェルがこちらを見ている。

「今日はありがとうございました。」何を言っていいかわからずクラウドが礼を言うと、

「テントの中にクラウドの匂いがたちこめてきた・・・参ったな・・」そう言って片肘をついて顔を持ち上げた。
テント内は狭いので、仰向けになったクラウドの顔のごく間近にミシェルの顔がせまる。

ミシェルはゆっくりクラウドの額にくちづけした。

「ザックスがうらやましい・・・」

クラウドは黙ってその顔を見上げた。

「ふん、大人になったな。オレが育てたかったよ。」そう言うとまた寝袋に潜り込んだ。

「おやすみなさい。」クラウドが言うと向こうを向いて軽くうなづいた。

外では時折風がうなってる。
吹雪くと追いつくのが遅れる。

ザックスはもう寝ただろうか?誰と一緒のテントなんだろう?うとうとしながら考えてるうちに意識を失うように眠りこんだ。


→NEXT(ドグーラ 6.)

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