<クラウドと黒い犬>
クラウドが子犬を拾ってきた。
真っ黒でどこに目があるかもわからないボサボサの毛並みの子犬を大事そうに懐に入れて帰宅した時は、皆少々驚いた。
大体チョコボ以外の動物に関心を示したことなんかなかったし、デンゼルが犬を飼いたいと言ってごねた時も、毎日散歩させたり世話が大変なんだぞ、と散々おどしてやめさせたのはクラウドなんだから。
「どこで拾ってきたの?」とティファが聞いたら、
「んん・・まあその辺で。」と相変わらずのはっきりしない物言いで、結局どこで拾ったのかさっぱりわからない。
その上、
「コイツはオレが面倒を見るから。」なんて言って、いそいそと寝床を作ってやったり体をふいたりしてやってる。
「大きくなったら誰が朝の散歩とか連れて行くの?」とティファが溜め息つきつつ聞いたら、
「ああ、オレが行くよ。」といつも寝起きが悪いくせに断言する。
ティファも呆れて、
「じゃあ、この子犬の面倒はクラウドが見てよ!私は見ないからね!」と怒って言うと
「そのつもりだ。」と胸に抱きかかえる。
黒い子犬はくんくんとクラウドにじゃれつくと顔をぺろぺろ舐めている。
こらこら、そんなに顔を舐めるなよ、とクラウドはひどく上機嫌だ。
拾われたばかりのくせにずいぶん人懐っこいわね、とティファとマリンもちょっと興味を持ち、抱かせて、とクラウドに頼んだ。
いいよ、とマリンの腕に預けると唸りながらじたばた暴れる。クラウドが、
「ほらほら、ダメじゃないか・・」と言って抱き上げるとクンクンいいながらクラウドに頭をすりつける。
「この犬、クラウドにしか懐いてないよ!」とマリンがげんなりしたように言うと、そんなことはないはずだ、とクラウドがもう一回今度はティファに預けた。
子犬は低く唸り声をあげながら身を縮めてる。
変だなぁ・・・と言ってクラウドが抱くとまたキュイーンと甘え声を出す。
「変な犬ね。でもクラウドが面倒見るならまあいいわ。」女性陣が呆れ声でそういうと、クラウドは小さい声で
「ザッキー、よかったな。」と片手に抱きかかえて頬ずりしてる。
マリンが、その犬の名前ザッキーって言うんだ、クラウドがつけた名前なの?と聞くと、う〜〜ん、最初っからコイツが自分でそういったような気がしたんだ、とまたわけの分からない事を言う。
そんなこんなで黒犬のザッキーが飼われることになった。
ザッキーは旺盛な食欲でぐんぐん大きくなっていく。
毎日クラウドがデリバリーに出かける時、
「ザッキー行くぞ!」と言うと真っ先に飛んできてバイクの横で待っている。
クラウドが仕事に出かける時は必ず付いて行く。
バイクの速さに犬がおいつけるわけないから、どうしてるのかと思ってティファが気になって聞いてみた。
クラウドは、いや、結構走るのが速くてあまり遅れずに付いてくるよ、と当たり前のように言う。
そんなことがあるのかしら、とも思ったが、まあ後ろから追いかけてるだけなんだろう、とあまり気に止めなった。
いまやザッキーは立ち上がればクラウドの肩に前足が届くくらい大きくなってる。
相変わらず毛はぼさぼさしてて、クラウド以外の人にはあまり愛想がない。そう言っても危害を加えるとかそういうわけではなくて、餌を与えた時の喜び方が違う、とか声をかけた時の返事の仕方が違う、といった些細なことなのだが。
まあ、クラウドにだけ異常に懐いてるというのだろう。
クラウドが食事の時はテーブルの下に控えていて、しょっちゅう食べ物をねだる。
他の人からは絶対食べようとしない。
ザッキーが喜んで食べると、クラウドは自分の皿のものをほとんど与えてしまう。
ティファが文句を言ってもクラウドには馬耳東風だ。
最近休みの日にはクラウドはザッキーを枕に昼寝していたりする。
自分の仕事部屋の床にザッキーと寝転んで片手でザッキーを抱えて寝てたりすることもしばしばだ。
ザッキーは温かいからな〜などと言って、ザッキーを膝に乗せて伝票整理をしたりもしてる。
冬が来ると、クラウドはザッキーを寝室で寝かせると言ってティファと大喧嘩になった。
もちろん大喧嘩と言ってもティファが一方的に怒ってるだけなのだが。
クラウド曰く、ザッキーは寒いのが苦手だから、外でなんか寝かせられない、というのだ。
かなり前から、ザッキーはしょっちゅうクラウドの仕事部屋で寝てるんだから、なんでそこで寝かせないの?というと、あそこは夜暖房が切れて可哀そうだ、ザッキーは寒いと朝鼻水を垂らしてて、すごく辛そうなんだ、オレはとても見てられない、と訴える。
犬の鼻水くらい何よ!!とティファが怒るが、さっさとザッキーの寝床を自分達のベッドの足元に運んできてしまった。
ティファは正直ザッキーが少し怖い。
なんだか妙に人間臭い目でじっと見てることがあるからだ。
その日は夜半から雪が降ってきて、寝室の中もぐっと冷え込んだ。
ティファは夜中にベッドの端においやられて寒さに目が覚めた。クラウドが真ん中で寝てる。
まったくヒドイ人ね、と思ってクラウドを押しやろうとしたら、クラウドの向こう側にザッキーが寝てる・・・
クラウドがザッキーを両手で抱きしめて顔を摺り寄せて寝てるではないか・・・
クラウドはもぞもぞ動くとザッキーの頭を撫で、頬を寄せた。ザッキーはクラウドの顎から首を丹念に舐めている。
「ふふふ・・・くすぐったいよ。」クラウドが寝言ともつかぬささやき声を出す。
その声は妙に艶めいていて、まるで睦言のようだ・・・
ザッキーはクラウドの体に半分のしかかっており、クラウドはザッキーを片手でそっと撫でている。
ティファは夜中に血の気が失せるような寒気がした。
ザッキーが目を開けた、
暗い寝室の中、その目は蒼く深く光りクラウドをじっと見つめていた。
完(2008/11/1)