ドグーラ戦の戦闘配備の発表と戦略会議のため、ザックスは朝から士官会議室に呼ばれていた。
別にどこに座ろうが勝手で、席も決まってもいないのでドア近くの椅子に座り、昨日渡されたプリントを眺めていた。

自分はマックスウェル大佐の大隊所属だが、実際には別の大隊所属の尉官クラスの小隊いくつか一緒に行動することになる。
そして、忌々しいことに、どうもミシェルの小隊と組むことになりそうだ。
「暫定的」と書いてあるがほぼ決まりだろう。

溜め息をついてプリントを畳み、
まだ時間が少しあるので、クラウドが書きこんだドグーラの地図をぼんやり見ていた。

どさっと隣に人の座る音がした。

「やあ、兄弟!」ミシェルだ。当の本人が隣に来た・・・

「おまえと兄弟になった覚えはねえ。」

「戦場で一緒に戦う男はみな兄弟さ。な?」

やけに馴れ馴れしい。

ミシェルは隣で肘をつくと、ザックスの広げてる地図を覗き込んだ。

「いい地図だな。よく書き込んである。自分で作ったのか?」

「いや。」クラウドが作ったというのがイヤさに一言だけ答えた。

「どうせ、オマエんところの副官が作ったんだろう?これはクラウドの字だ。」
「なんでオマエがクラウドの字知ってるんだよ。」ザックスが答えるとミシェルはしてやったりとニヤリと笑った。

「知らないさ。カマかけただけだ。」

一々イラつくヤツだ。こんなヤツとあの霧深い山奥を一緒にうろつくのかと思うと今からげんなりする。

「クラウドとは仲良くやってるのか?」また鬱陶しいことを聞いてくる。

「ああ、オマエが想像してるよりずっと仲良しさ。」腹が立つのでそう言った。

ミシェルは顔を近づけるとザックスの首の辺りの匂いをふんふんと嗅いだ。

「うん、ホントだ、クラウドの匂いが浸みこんでるな。クラウドからもあんたの匂いがしたし。」

「オレの周りをふんふん嗅ぐな!!気持ち悪い!」ザックスが声を上げると、ちょうど部屋に入ってきたマックスウェル大佐に注意を受けた。

「そこの二人!!作戦前から仲がいいいのは結構だが、少し静かにしてもらおう!」

くそ・・・ミシェルめ・・・横を見るとミシェルがにこやかに大佐に目礼してる。
ザックスも仕方なく軽くうなずいた。



先遣部隊で行ったレオンたちは苦戦してるらしい。ラインが伸びすぎて分断されそうだということだ。
たぶんオレたちはレオンたちが行軍して行った本道の脇道を援護しながら救援に向かうことになりそうだ。
大佐の話ではともかく「てっぺん」を押さえろ!ということらしい。
大型の火器を持ち込むには道が険しい。ともかく下から戦いながら這い登れってことか・・・

神羅の第一目標は峠の分水嶺を確保して南側斜面のウータイ兵を一掃しようということのようだ。
簡単に言ってくれるなぁ・・・今現在、南斜面の高地はウータイが押さえてるのに・・・

クラウド曰く、この時期は霧がしょっちゅう出て視界がすごく悪いそうだ。
オレ、霧の中でミシェルとばったり出会ったら一発殴りそうだよ・・・

出発は一週間後。

今度は小隊の人数も少ない。散会しつつ展開ってヤツだ。


部屋にもどり、クラウドにミシェルと一緒に行動することになりそうだって伝えたら、聞いたとたん機嫌が悪くなった。

「ザックス、ミシェルとオレはなんでもないんだから、よく覚えておいてね。」とダメ押しのように言われた。
こんなにしつこく言うなんて珍しい・・・

クラウドは銃オタクだから、このところ自分の銃器の改造と手入れに余念がない。
愛用のスナイパーライフルもなにやら色々オプションをつけたらしい。
軍の銃器開発部に入り浸って低温仕様だのオートとの切り替えだの色々なにやらやってる。

オレも前の小隊の兵卒と訓練をしないといけない。
忙しい。あと一週間か・・・また風呂に入れない生活が始まるんだ・・・



前線基地への出発も明日に迫った。
今回は前線に基地があるからまだいい。撤退する時も少し気が楽だろう。

デンゼルが泣いてる。

「中尉・・・気をつけてください。お帰りを待ってます・・伍長も無理しないでくださいね。中尉のことをよろしくお願いします・・」

「おいおい、なんでオレがクラウドによろしくされるんだよ!」ザックスは苦笑しながら言うと、
「だって、伍長は中尉の奥さんみたいなもんじゃないですか・・・」

「オレが妻??!!」クラウドが怒ってる・・・あ〜〜あ、デンゼル・・・そんな事言っちゃダメだ。たとえ実際それに近くても。

「まあ、二人そろって帰って来られるよう祈っててくれ!」ザックスはデンゼルの肩をたたくと額にキスをした。



本部基地最後の夜なので、クラウドと軽くワインを飲みながら、早い時間からゆっくりベッドで過ごす。
この季節は雨が多いので、折りたたみの軽い二人用テントを使用するらしい。新式だ。半分ずつ持ち歩き、誰かもう半分を持つヤツとペアとして組み立てる。
クラウドと一緒にテントの中はいいけど、戦場じゃゆっくりできない。まあ、キスくらいでガマンするんだな。

明日出兵になったというのに、夜半からしとしと雨が降り出した。クラウドは今からジープに乗って前線基地まで行く間酔うんじゃないかって心配してる。

「今夜たっぷり飲んでおけばいいさ。」
「よけい気持ち悪くなるに決まってる・・・ザックスにはわからないんだよ、車酔いの気持ち悪さがさぁ・・」

「じゃあ、今夜寝不足になって明日は車の中で寝てればいい。」

「なに?オレとザックスの二人で並んで寝不足の顔してくわけ?イヤだね、そんなの。」

まったくクラウドは色んなことを気にしてる・・・
今夜は本人希望により
「キスマークを絶対つけない!!」と約束させられた。オレはクラウドの首筋を噛むのが大好きなのに・・・

それでもゆっくり抱き合い、温めあい、(今日は冷え込んできた)お互いの腕の中で過ごすのはいいものだ。
クラウドの感極まった時の眉をひそめて口を半ばあける顔がしばらく見られなくなるのは淋しい。
すべらかな肌をじっくり味わい、明日からのドグーラ行きをしばし忘れた。


前線基地までは大型ジープの荷台に揺られて移動だ。
練兵場から隊ごとに出発になる。
うちの小隊はミシェルと一緒じゃなくてほっとする。クラウドが車酔いの上ミシェルにまでいられたらたまらない・・・

雨がしとしと降っており、意気があがらないことこの上ない。クラウドは真っ白な顔でジープの壁に寄りかかって目をつぶっている。
声をかけてやりたいが、人目があるので我慢する。
一応今回の小隊は8人なので気楽だ。皆生き延びてほしい。
クラウドの作った地図をコピーしたものを全員に配り、知ってる限りの注意を与える。
ともかく視界が悪いし、どこで敵に出くわすか全く予想もつかない。細心の注意を払うこと。
前線基地が近いので、何かあったら撤退すること。
まあ、そんなところだ。地図をよく頭に叩き込むよう注意いしてるうちに前線基地についた。

前線基地で装備を整えたら、いよいよ戦場というわけだ。
前線基地は簡易プレハブ作りとはいえ、暖房はきいてるしアサルトキッチンもある。
向こうに険しい山がそびえている。ドグーラだ。上の方は雲が出てて霞んでいる。尾根から吹き降ろす風は冷たく思わず身震いする。

クラウドがジープから降りて、山を見上げてつぶやいた。

「ああ、山だ・・・風が冷たいなあ・・・もうすぐきっと雪が降る・・・」不吉なことを嬉しそうに言ってる・・・
そうだ、こいつは山が好きなんだ・・・
ザックスは一瞬、クラウドがケモノの姿に戻って山に帰ってしまう幻が目の前に浮かんだ。バカなことを・・・

士官と副官はすぐに会議室に集合ということで荷物の整理もそのままに、会議室に案内された。

そこで聞かされた話は、ともかく今現在危機的状況の先遣隊(レオンたちの隊だ)を援護すべく、本道の両サイドから山にはいり、頂上近くにウータイが設置した小砦を破壊もしくは奪回する、というのが大筋のようだ。
オレたちの小隊は忌々しいことにミシェルたちの小隊を含む三部隊と一緒に、散会しつつ掃討しながら本道の右を行く。

会議室から出ると、ミシェルに肩を叩かれた。

「明日からよろしくな!そう不機嫌な顔するなって。」

「まあ、戦場では協力するぜ。」

ザックスはミシェルが差し出した手を握った。


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