スコープで見ているとウータイ側は混乱しだしている。人が動くので撃ちにくいがまた続けて5人ほど砲手と装填手を撃った。
そろそろ場所を特定される頃なので、場所を移動して先に行って戦闘を始めてるソルジャーたちの後を追うと、背後でランチャーの砲撃が炸裂した。
自分がさっき伏せていた辺りに撃ち込んできたようだ。危なかった・・・
不意打ちが成功して、砲撃隊の半分以上が浮き足だって崩れてきている。
素早く物影から移動すると、砲撃隊の端に転がってるランチャーを抱えた。血まみれの雪の中砲弾を装填する。
肩にかついで離れたところにいるウータイのランチャー隊に狙いを定めた。
重い。初めてこれを撃った時は衝撃で後ろにふっとんだっけ、とふと思い出しながら足場を確認して腰を落とした。

どん!!!という低音と強い衝撃が体にかかる。ずずっと踵が雪を削る。
弾はゆるく湾曲した高台の向こう側に落ちると雪煙を上げた。たぶん2〜3人はやった。

他にもランチャーに取り付いた仲間の狙撃手もランチャーをウータイ側に向かって撃った。
雪山に砲音がこだまする。
もっと雪が降っていたら雪崩が起きるところだと思い、一瞬冷や汗がでた。

物音に気づいて高台の上方に広がるまばらな林を見上げると、ザックスたちだろう、本隊が突入してきてる。

乱闘になってきた。もう一発ランチャーを撃ちこもうと装填してると、ミシェルが近づいてきた。
返り血を浴びて殺気をまとってる姿はふだんの軽い雰囲気からかけ離れて別人のようだ。

「クラウド!ランチャーあと一発撃ったら上に移動してここから離れろ。ヤケになった砲手が味方ごと吹っ飛ばそうとしてこっちを狙ってくるぞ!他の狙撃手はもう上に移動しだした。ザックスたちが来たからな。上から援護してくれ。」

「あと一発向こうに撃ち込みます。もう装填したんで。」

クラウドはそういうが早いかランチャーをウータイ側に撃ち込んだ。

衝撃音とともに着弾したあたりに雪煙が立つ。きっと血まみれの雪だ・・
雪の坂下方の平地にいるレオンたちの軍は、敵の混乱に活気付いたらしく、制圧した側の坂をこちらに向かって上ってくる。

少しほっとした思いでクラウドがランチャーを置いて高台上方に後退しようとした時だ。

空気を切り裂いてこちらに向かってくる弾に気づいた。

「危ない!!!」脇にいたミシェルがほとんど目にとまらぬ速さで砲弾を切った。クラウドが伏せた瞬間、オレンジ色の閃光が目を射る。

頭上の空気を震わせて弾の爆発音が聞こえた。
地面を伝わる強い衝撃音に失神しそうになった。
周囲にばらばらと細かい岩の破片と雪が降り注ぐ。
クラウドは頭を持ち上げると、自分の上に覆いかぶさってるミシェルの重さにようやく気づいた。
脇腹から血が流れている。

「ミシェル!!」仰向けにして傷を見ると、左脇腹がぱっくり裂けている。

「ミシェル、ミシェル!!!」
クラウドが叫ぶとうっすら目を開けた。

「クラウド、無事か?よかった・・・」
左脇腹からごぼりと血が噴出した。

「ミシェル!」クラウドの頬に涙が流れる。

ミシェルは、呆然として涙を流してるクラウドを見上げるとかすかな声でささやいた。

「クラウド、泣くな・・お前が好きだ。それだけだ。お前の答えはいらない・・・」
ミシェルはそこまで言うと視線がふいと宙を彷徨い意識を失った。

「ミシェル!」クラウドは傷を確認すると、止血しようとともかく押さえた。指の間から時々どくどくと血が漏れる。


「クラウド・・・」背後から声をかけられ、はっとして振り向くとザックスが立っていた。



「ミシェルが・・・オレをかばって・・・」クラウドはザックスを見上げて言うと、ザックスはしゃがみこみミシェルの脈を見た。

「大丈夫だ。出血で失神してるんだ。コイツもソルジャー1stだ、コレくらいじゃ死なねえ。」

ザックスは腰のポーチから救急キットを出し、創傷シートをだすとミシェルの脇腹をぬぐって貼った。

「レオンの中隊に軍医がいる、連れてくるから待ってろ。お前はここで援護しててくれ。」

ザックスは勢いよく坂を駆け下りていくと、下方の塹壕を目指して走った。

戦闘はほぼ終了し、ウータイ側のランチャー隊はほとんど壊滅状態になったようだ。
クラウドは両手にねとつくミシェルの血を服でぬぐうと、ライフルをかまえザックスの援護射撃をした。
涙が頬をつたう。

ミシェルにどれだけ助けてもらったか・・・
ミッドガルで黙々とウータイ行きの演習に励んでいた時、ふらりと現れては適切なアドバイスをくれたり、便宜をはかってくれた。
いつも何を考えているのかよくわからず、すぐにキスをする。軽いのかジョークなのか自分にせまる時も引き際が鮮やかだった。

そう、ミシェルのキスに慣れてしまったように、彼の親切にも慣れきっていた自分がいた。

この愛には応えられない。それはたぶんお互いにわかっていたのだ。

ザックスが走っていく。もう下の塹壕にたどりついたようだ。
涙で目が曇ってよく見えない。こんなんじゃダメだ。

クラウドは袖で目をぬぐうと残ってる敵方の砲手を狙って撃った。
ほぼ制圧したようだ。生き残ったウータイ兵が退却していく。

ミシェルは蒼白な顔のまま横たわっている。生きてるんだろうか?
おそるおそる頚部の動脈のあたりに触れると、微かな拍動を感じる。
そっと額を撫でる。
ミシェル、・・・なんて謝っていいかわからない・・・愛せなかったから・・
意識を失って横たわった姿はほとんど安らかなようで、痛ましい。

周りの様子からすると、今回の作戦は成功のようだ。
対側のウータイ兵も後退しつつある。
そうはいってもまだまだドグーラのほんの一角を崩したに過ぎない。
クラウドはしばらくぼんやりしながら、一体いつまで戦い続けるのだろうとふと思った。


下の方からクラウドを呼ぶ声がする。
軍医を引っ張りながらザックスが坂を上ってくる。途中でイラついたのか、軍医を背負った。
ザックスらしい。
そのまま坂を飛ぶように駆け上がる。

「クラウド、軍医連れてきたぞ。」ザックスの背中から息も絶え絶えの軍医がころがり落ちる。

軍医はざっとミシェルの容態を確認すると、
「出血が多いが、ほぼ止まってきてるようだ。脾臓がやられてるのにさすがだな。」と言い、背中に背負った荷物から救急キットを取り出すと応急処置をした。

「ウータイの本部基地に帰そう。うちの隊の少佐に連絡する。下の本隊に連れてってくれ。」

ザックスは何人か部下を呼ぶと、簡易担架に乗せたミシェルを下の本隊に運ぶよう命じた。坂だからキツイだろうなあ、ミシェルはデカイし。クラウドは半分放心したようにそんなことを考えながら苦労して坂を行く連中をじっと見ていた。

「クラウド、オマエ、怪我は?」ザックスに聞かれるまで気づきもしなかったが左の大腿部に怪我をしており、血がにじんでる。

「たいした怪我じゃない・・ミシェルがいなかったら、オレはすっ飛んでた・・」

「クラウド・・・無事でよかった・・」ザックスはクラウドを抱き締めた。人前だけどかまわない。

「ザックス、色々心配かけたね。そのうちゆっくり話すよ。ザックスがいなかった日のことを。」
そう、ミシェルのことも話そう・・・

クラウドはザックスを見上げた。ザックスは何も言わずに強く抱き返してきた。






ウータイ兵も退却し、辺りは少し落ち着きをとりもどしたようだ。
坂の下からレオンが呼んでる。
レオンも無事だ。

「すげえ坂だな。まったく。」レオンはポットを持って上がってきた。

「熱いコーヒーでもどうだ?助かったよ。ここに足止めされて無線はつながらないしな。」

三人で雪の上に車座になって座り、熱いコーヒーを飲んだ。

「おお、沁みるように美味いよ、インスタントなのに。」ザックスが一口飲むと唸った。

「奇襲作戦は成功だな!クラウドもお疲れ様だ。オマエ、すげえ顔だぞ。煤けちゃって。美青年が台無しだ。」

クラウドにコーヒーを継ぎながらレオンが笑った。

「ここは要所だから、神羅の小砦を築くってうちの少佐が言ってたぞ・・交代要員が来るまでここにテント張っていなきゃいけないんだよ。うちの隊に大きい本部用テントあるからこの高台にこれから張るそうだ。」

「ドグーラで年越えか・・・」

「交代要員が来たら下の基地に戻って、ここの確保のため行ったり来たりだ・・・」

「クラウド、約束通り雉撃ってくれよな!冗談抜きでここでクリスマスかもしれないからさ。」レオンがクラウドに声をかけた。

「いいですよ。美味そうなのいたらいつだって撃ちますよ。」クラウドがいつもの真面目な口調で答える。

「冗談が本当になったな。しかし、ミシェルのヤツ、結構大怪我だから、本部基地からミッドガルに帰されるかもしれないぞ。まったく、アイツは運がいいんだか悪いんだか。」

五合目まで下りれば小型ヘリが飛んで来られるそうだ。多分そのまま本部基地に移送だと情報通のレオンが話してくれた。

「アイツに礼を言わなきゃいけないのに、ミッドガルに帰るんじゃ言う間がないなあ・・」ザックスがつぶやいた。

「まあ、皆生きて帰ってミッドガルでお祝いしたいね。いつになるかわからないけどさ。」レオンが人の良さそうな笑みを浮かべた。

日が大分傾いてきた。高台の上は片付けられ、大型のテントが立ちつつある。

雪のドグーラはしんしんと冷え込んできた。

いつまでこの戦争が続くかわからない。先のことはまったく予測も立たない。
それでもザックスと一緒にいられる。それだけで十分だ。
クラウドはレオンと笑い交わしてるザックスの横顔を見つめながら、もうぬるくなってきたコーヒーを飲み干した。

西の空は茜色になってきて、いつのまにか雲も薄くなり明るい星が一つ瞬きだした。



     完(2008/11/25)




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