軍事全体会議が終わり、廊下は士官でごったがえしてた。
東方での膠着状態の戦闘を打開するための新しい作戦が打ち出されたので、士官達はこれからの戦闘配備を各自勝手に憶測しあってざわめいていた。
ザックスは、自分の部隊も人員が整ってきたので、近々前線に出ないといけないだろうと少々鬱々としながらぼんやり廊下を歩いていた。

その時、「ザックス!!」という明るい声が聞こえた。
レオンの声だ。振りかえってあたりを見回すと、栗色の頭がひょこりと遠くで持ち上がりひらひらと手を振ってるのが見えた。

「レオン!!」周りにいる士官達をすみません、すみませんと言いつつかきわけ、友人の元にたどり着いた。

「どうだ?その後。元気にやってるか?」
レオンはザックスの背中を勢いよくたたき肩を組んできた。

「ああ、元気でやってるよ!オレの部屋は東翼の山側一番端だ。遊びにきてくれ!」
レオンは声をひそめて顔を寄せると
「オマエのところのあの山猫も元気か?副官にしたそうじゃないか、ゴリ押しで。」とささやいた。

「ゴリ押しじゃねえって。自然経過だよ。」一緒に声をひそめて答え、別にやましくなんかないぞ、というように目を見開いた。

「オレもそろそろ前線だ。今夜にでも一緒に飲もうぜ。」レオンは片手でグラスを持つ身振りをしてにやっと笑った。

「ウータイの港への道を寸断しようってんで、ドグーラ峠辺りがきな臭くなりそうだ。あんな山ン中でウータイともつれ込んだら厄介だな。あ〜〜あ、オレはそろそろドグーラに派遣になりそうだ・・・・」レオンが溜め息をついた。

「オレの部屋に来いよ。周りに他の士官の部屋もない隅っこの部屋だから、思いっきりグチれる。今夜酒持って来てくれ。」ザックスはレオンの背中を叩くと軽く手を振って別れた。




夕食後、部屋に戻るとクラウドにレオンが今夜部屋に来ることを告げた。

「デンゼルに言って、何かつまみを食堂からもらってくるように言っておくよ。」クラウドはそういうとデンゼルを呼びに行った。

ザックスはソファにどっかと腰を下ろすと煙草を取り出しぼんやりしながら火をつけた。
廊下でクラウドがデンゼルにつまみの事を命じてる声が聞こえる。
レオンと飲むのは久しぶりだ。あいつの部隊は多分先にドグーラ入りしそうだ。オレのところもそろそろだ。
ドグーラで冬を迎えるのはイヤだなあ・・と紫煙を天井に向かって吐き出しながら考えていた。

「そろそろ戦線復帰?」クラウドが聞く。
「ああ、レオンたちが先になりそうだ。アイツの部隊が先遣隊で投入される。ミッドガル待機の連中も相当呼ばれそうだ・・・」
明らかに戦線は拡大しつつある。ウータイの複雑な地形の元、ゲリラ戦が展開され、神羅はかなり苦戦している。
制圧した町もレジスタンスの動きが活発で手を焼いている。
戦いが泥沼化してきているのは誰の目にも明らかだ。

「オレはどこに行ったってかまわない。ザックスが行くところなら。」クラウドがテーブルの上を片しながら小さい声でぼそりと言った。

ザックスは体を起こすとクラウドを背中から抱きしめた。
クラウドの髪を鼻先でかきわけると、耳元で
「オレもオマエと一緒ならどこでも天国だ。」とささやきうなじを甘噛みした。

「本当に天国に行かないよう気をつけろよ!すぐ無茶するから。」クラウドが言うと
「違う天国に行こうぜ。」とソファに引きずり込んで自分の膝に乗せた。

「バカ!ザックス!!ヘンタイ!もうすぐレオンが来るぞ!!」クラウドが顔を赤くしてののしってもお構いなく、ザックスは後ろから上着のボタンを外すと手を滑り込ませた。
クラウドのほっそりした腰を両腿で挟み込み、手をさらに奥に差し入れる。

ノックの音が聞こえた。
クラウドが立ち上がるより早く扉が開き、
「よう!!ザックス!」とレオンが入ってきた。

クラウドがあわてて立ち上がり、ボタンをはめた。

レオンは片眉を釣り上げると
「ん?お取り込み中だったか?」と言いながらどかどか入ってきた。

「よ〜〜!!レオン、いい酒持ってきてくれたか??」ザックスが声をかけるとレオンは戦利品のように脇に抱えていた壜を高々持ち上げた。
「うちの大佐んとこからくすねてきた。」

「少尉、お久しぶりです。」クラウドがレオンに敬礼した。まだ顔が赤い。

「元気そうでなによりだ。活躍してるそうじゃないか。」レオンが声をかけるとクラウドはまた顔を赤くして、
「いえ、たいして・・」とぼそぼそ言うと、デンゼル呼んできます、と小声でつぶやいて廊下に出て行った。

「彼も大人になったね。相変わらず飼い主以外にはなつかないみたいだけど。」レオンはクラウドが出て行った扉を振り向きながら、そう言い、ザックスの前に腰を下ろした。

「クラウドは優秀だよ。腕もいいし状況判断もいい。オレは助かってる。」ザックスはそういいながら、テーブルの上のグラスにレオンの持ってきた酒をついだ。

「オマエがまた事務仕事まで押し付けてるんじゃないかって、心配してたよ。」レオンはザックスの顔を見てにやりとした。

扉が開いて、大きな盆を抱えたデンゼルが入ってきた。

「遅くなってすいません!」盆をテーブルに置くと氷が山盛りのアイスペールと、チーズやハムやらの乗った皿を並べた。

「クラウドは?」ザックスが聞くと、
「部屋にいますって。何か用があったら呼んでくださいって仰ってました。」デンゼルは二人のグラスに氷を入れながらそういった。

「ボクも近くにいますから、何かあったら呼んでください。」デンゼルはそういうとぺこりとお辞儀をしてお盆を抱え出て行った。

「可愛い子だな。いいボーイじゃないか。」レオンはチーズをかじり、美味い、とつぶやいた。

「ドグーラはどうなんだろう、何か知ってるか?」ザックスが聞くとレオンは
「レナリア台地に通じる道はウータイがまだ押さえてる。ドグーラ峠をもぎとらないとキツイぞ、神羅は。あそこは険しくて地形も複雑だ。あんなところで冬を迎えたら最悪だよ・・・」レオンはソファによりかかると溜め息をついた。

「お前はいつここを出るんだ?」

「多分もう一週間以内だ・・」レオンはげんなりした口調で言うとグラスの中のウイスキーを一気に飲み干した。

「順番から行くとお前が行って2〜3週間かな・・・」ザックスも溜め息をつくと立ち上がり、クラウド呼んでくると言いながら寝室へのドアを開けて部屋から出て行った。

ザックスがクラウドと部屋に戻ってきた。クラウドは少し緊張してるようで、椅子に座るとレオンに目礼をした。

「オマエさあ、ドグーラの地形とか色々調べてたよな?」ザックスが聞くとクラウドはうなずいた。

「あそこの地形は複雑です。資料で見た限りでは標高差も南側の神羅の臨時基地から峠の一番高いところまで千メートルはありますね。天候も変わりやすいし・・・峠に向かって、神羅側・南からは主に三本道があります。ケモノ道はもっとありそうです。ウータイ側・北へは一応地図には二本道が書いてありますけど、これももっとあるんじゃないですか?これじゃどこで不意打ちされるか・・・」

クラウドは地図持ってきましょう、というとザックスのデスクの上をしばらくかきまわし、一枚の地図を持ってザックスのところに戻ってきた。
地図は等高線ごとに綺麗に色分けされており、高地と低地が一目でわかるようになっている。川も塗り分けてあり、深い林、風穴、地雷域、神羅とウータイの補給路、前線基地も書いてある。

「いい地図じゃないか!どうしたんだ?これ?」レオンが聞くとクラウドがまた赤面し、
「オレが作りました。」と恥ずかしそうに答えた。

レオンはザックスを肘でつついた。

「ホントにいい副官だな。オレもこういう副官が欲しいよ。」

「クラウドが調べてくれるから、オレは後のチェックだけで済んでる。」ザックスは嬉しそうに言うとクラウドの髪をくしゃりとつかんだ。
それを見てレオンが肩をすくめた。

「多分クリスマスと正月はドグーラかその周辺でお祝いだな。」ザックスが煙草に火をつけてレオンにもすすめた。

「めでたいなあ〜まったく・・・オレ、生きてるかな・・・」レオンが煙草を受け取りながら冗談めかして言うと、ザックスは

「クラウドに雉でも山鳥でも撃って料理してもらおう!丸焼きにして一緒に祝おうゼ!!戦場のメリークリスマスだ!!な、クラウド?」と言いながらクラウドのグラスに酒をついだ。

「でかいの撃ちますよ。塩と胡椒を忘れずに持っていかないと。」クラウドが真面目な顔で答えた。


レオンは遅くまでいいご機嫌で飲んでいた。
帰る前に、ドアのところで思い出したようにザックスが、
「そういえば、ミッドガルから今度ソルジャーは誰か来るんだ?」とレオンに聞くと

「たぶん、ミシェルあたりじゃないか?アイツまだミッドガルにしがみついるからな〜」と答えた。

クラウドの顔がこわばり、青ざめたのをザックスは一瞬目の端に捉えた。

「じゃあな、今日は楽しかったよ。お互い命は大事にしような!!」レオンはザックスの肩をたたき、クラウドに手を振って廊下をふらふら帰って行った。

レオンが行ってしまうとザックスがクラウドを後ろから抱きしめた。

「こうやってゆっくり出来るのもあと少しか・・・戦場じゃなぁ・・・なかなかチャンスはないだろうから。」

「戦場でこんなことしてたら大変だよ・・・」クラウドが眉をしかめた。

「オマエはオレの副官なんだからいつもずっと一緒にいないとダメだぞ・・」

「命令には従います、中尉。」クラウドも笑いながら答えた。


クラウドはその夜、ザックスに押し切られシャワーを一緒に浴びてしまった。
狭いシャワー室に二人でぎちぎちになって髪を洗うと泡が飛び散って肘はお互いに当たるしでかなりきつい。
その上ザックスがクラウドの腰を抱いて体を押し付けてきて、
「オレの体で洗ってやるよ。」などというものだからたまらない。クラウドは頬が上気し、
「バカ!ヘンタイ!やめろ!」と言い続けることになった。
それでもザックスはかなり強引に体を密着させてきてたが、なんとなくクラウドの反応がいつもと違う気がした。
どこか上の空というか、時折ふと目が泳ぐ。

元々自分がしつこいと嫌がる素振りをすることが多いが、クラウドの注意は自分に集中してる。

もしかして、とふと思ってカマをかけてみた。

「いまだにミッドガルにしがみついてるソルジャーもいるんだぜ。イイカゲンに覚悟決めればいいのにさ。」

クラウドがわずかに身じろぎした。

「ミシェル、知ってる?」もうちょっと遠まわしに色々探りを入れてから聞こうと思ってたのに、結局ザックスはザックスらしく正面勝負にでた。

「知ってる。」クラウドが一言答えた。なんだかいいにくそうにしてるので、何があったかなんとなく予測できるような気がした。
ミシェルは色々噂があるし・・・

ザックスはどう聞いていいかわからずまたもや直接的に聞くという彼らしい手段にでた。

「ミシェルとなにかあったのか?」クラウドを見ると一瞬眉をひそめ
「何もない。」と答えた。

これは多分質問の仕方が悪かったんだ、と気づいたが、クラウドが不愉快そうな顔をしてるので、勝手に想像することにした。
オレがいない間にミシェルの野郎、クラウドに迫ったに違いない。
きっとかなりキワドイところまで行ったんだろう。クラウドの反応がそれを物語ってる。
アイツとドグーラ行き組むことになったら厄介だ・・・あいつは粘着気質だからな・・・

「ザックス、何黙り込んでるんだよ。」

「いや、何も・・」

「どうせ、変な想像でもしてたんだろう。」
クラウドが逆に怒ってる。
逆切れだ・・・こうなるともう何も言えないので一時撤退することにした。
どうせもう近々ミッドガルから最後の一陣がやってくるはずだ。
来た時は来た時だ。

自分たちの間に誰かが入ってくるなんて信じられない。
オレはクラウドを信じてる、とザックスはぬめるクラウドの体を抱きしめながらくちづけをした。


レオンの隊が出兵した。
ドグーラの前線基地で冬装備を受け取る、と聞いて、ザックスはげんなりした。
寒いのは苦手だ。
南方の生まれということもあるが、あの冷たい空気にはなんとなく意気消沈させるものを感じるのだ。
クラウドに冬装備の話をしたら、
「あ、そう。」と軽くいなされた。考えたらクラウドは冬山なんか慣れたものなんだろう。
また色々頼ってしまいそうだ。

アイシクルエリアにはソルジャーになったばかりのころ行ったが、激戦とはいえ期間が短かったのであまり冬山の厳しさは感じなかった。
今度のドグーラは深い山の中だ。それもたぶん小隊抱えてウロウロするんだ。
霧の中で同士討ちした話も漏れ聞いて、ますますユウウツになる。

そろそろ辞令がでるころだ。明日ミッドガルからソルジャーと一般兵が来る、と大佐から聞いた。
ミシェルが来る・・・クラウドとのことを確かめたいような確かめたくないような・・




クラウドはいつもの日課のトレーニングをしていた。
まだトレーニングルームには誰もいない。他人と会うのがイヤだから、いつも朝早い時間にトレーニングルームに入る。
朝食前に一時間まずみっちりやる。
どうも自分は筋肉がつきにくいので、きっちり自分なりの予定をこなさないと気がすまない。ザックスはそんなに努力する必要もないので、その辺りが今一つわからないようだ。

今朝も誰もいないトレーニングルームで懸垂をしていた。汗をかいたので上着を脱ぎ、上半身裸でバーにつかまっていたらいきなり背中を触られた。びっくりして手を滑らせ、バランスを崩して落ちたところを抱きとめられた。

「大人になったな。」ハスキーな声が背後から聞こえた。まったく気配を感じなかった・・・
クラウドはびくりと振り向いた。そこにいるのが誰かわかると、あわてて手を振り払って起き直り、起立した。

ミシェルだ・・・黒髪の癖の強い巻き毛を後ろで一つにして、火のついてない煙草をくわえている。
ミシェルの背格好はほとんどザックスと同じで、色も浅黒く、遠目に見るとザックスとよく間違えられる。
抱きとめられた感触もよく似ていた。

「色々噂は聞いた。さすがだな。優秀なスナイパーとして活躍してるらしいじゃないか。」

クラウドは体制を整えると敬礼した。

「ブランシェ少尉。お久しぶりです。」
ミシェルはにやりとした。

「相変わらず固いね。ザックスとはうまくいってるの?情熱的に追いかけていったものね。」
ミシェルはくすくす笑うとクラウドに敬礼をやめるよう手をふった。

「それは公的質問ですか?」クラウドも固い口調で返した。

「まったく。そこまで言うなよ・・・オレはまだ諦めてないんだ。」

ミシェルはクラウドに近づくと首の辺りの匂いを嗅ぐ素振りをした。

「ふん、ザックスの匂いが染み付いてるな・・」
「何を仰ってるんですか・・」クラウドが言うとミシェルはくすりと笑い、
「オレもソルジャーだ。嗅覚は君らよりずっといい。ザックスなんて君の匂いを100m先からでもわかるよ、きっと。」
クラウドの頬に血が上った。

クラウドは床に脱ぎ捨てた上着を拾うと、

「朝の点呼の時間なので失礼します。」と敬礼してからトレーニングルームを出た。
後ろからミシェルが見つめている。背中がほてるような気がして足を早めた。


部屋に戻るとザックスはシャワーから出たところで首にタオルを巻いたままコーヒーをカップに注いでた。

「おお、クラウド、朝からトレーニングルーム行ってたの?オレも一緒に行けばよかったな。」
ザックスはコーヒーを飲みながらクラウドに近づくといつものように髪をくしゃりとつかんだ。

クラウドは気になっていたのでちょっとザックスに聞いてみることにした。

「ねえ、ザックスはオレの匂いわかる?」

「もっちろん。オマエの匂いは独特なんだ。風上にいれば100mでもわかるさ。」

本当なんだ・・・・まるで犬だ・・・

「廊下を歩いたあとにも匂いが残ってるからわかる。衣類にも浸みついてる。」そういうと近づいてきて髪に顔を埋めたが、はっと顔を上げ、

「トレーニングルームに誰かいただろう?」と聞いた。
クラウドは信じられない思いでうなずいた。

「両切り煙草のハーフ&ハーフの匂いがする・・・ミシェルか??」

いきなりばれたのでクラウドもさすがに焦った。

「トレーニングしてたら部屋に入ってきた・・」

「昨日の夜着いたんだな。クソッ!あの野郎もうクラウドに目つけてるのか・・・」

「いや、挨拶しただけだよ。」クラウドが言うとザックスは後ろから抱きしめ、首筋にキスをした。

「オレの匂いをしっかりつけておいてやる。ミシェルが悔しがるくらい。」

朝から何言ってるんだか・・。クラウドは呆れたが、ザックスにされがままになっていた。今日は配属発表があるはずだ。
ミシェルと一緒の隊にならなければいいな、と思ったり、そう思うとなるかもしれない、などとぼんやり考えながら、片手で後ろからしつこくキスしてくるザックスの頭を抱えて、犬にするように頭を撫でた。



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