ミッドガル雑記;ミッドガルの12ヶ月

□2017年クリスマスSS
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もうすぐクリスマスがやってくる。
そう思う度に胸の奥が狭まり、喉の詰まるような息苦しさが襲ってくる。
去年のクリスマスのことは忘れたことになっているのに、クラウドの頭の中ではぐるぐるぐるぐる思い出というには生々しい記憶が蘇る。

もう一年もたったのだ、あの過ちから。
ーーーそう、去年のクリスマス、ザックスと寝てしまった。

酒の上での過ちってヤツだ。

思い出すな、思い出すなと自分に言い聞かせている。だってザックスはすっかり忘れているようだし、あれから自分に対する態度にも変化はない。
つまりザックスにとっては本当に酒の上の戯れ、もしくは事故であり、どうでもいいことなのだ。それも覚えているかも定かではない。

幸いソルジャーってヤツはしょっちゅうミッションに出かけていてミッドガルにはいない。
顔を合わせるのにバツが悪くても、クラウドがうじうじしているうちにあっという間にまたどこかへ派遣されてしまう。

だから一年経ったと言っても実質一ヶ月くらい前のような気がするのだ。

今日も突然ミッドガルに帰ってきたザックスから「よお、元気してた?メシ行こうゼ!」という軽いメールで呼び出され、寒風に襟を立てて繁華街の噴水脇で待っている。
季節はもう冬。カレンダーをめくって12月という活字とクリスマスに付いた金色のマークを目にした途端、クラウドの胸は妙にざわめいた。


ーーー今年のクリスマスはどうなるんだろう?

まずは今日ザックスと会った時、「クリスマスはミッションでいないんだ」という言葉に期待。
ザックスがクリスマスにミッドガルにいなければ、心安らかに穏やかな日常を過ごせる。
特に用事もない寮の仲間と集まって、ささやかな酒やつまみでDVDを見る。
次はザックスが彼女だかセフレだかと勝手にクリスマスパーティーを予定していて、忙しいこと。
……もう一つ残された可能性、<自分と一緒のクリスマス>は実現する率は低い。
だからこんなに先取りして心配する必要はないのだ。

一人で心配して一人で結論づけてちょっと安心すると、クラウドは襟をかき合わせた。
木枯らしの吹き荒れるミッドガルはかなり寒い。
北国育ちでも、薄着では結構こたえる。

寒くて身震いしていたら、いきなりふわっと首元が暖かくなった。
上等なカシミアのマフラーからほんのりコロンが香る。

「お待たせ!クラウドめっちゃ薄着!ニブル育ちだからってミッドガル舐めちゃダメだぞ」

知った声なのに飛び上がらんばかりに驚いて振り向くと、皮のコートに皮の手袋、足元には毛皮の縁取りの小粋なブーツを履いたザックスがいた。
「ザックス、重装備だな」
「そりゃ〜、もう。俺は南国育ちだから冬はしっかり着込む!」
「マフラー……」
ザックスの使い慣れたコロンが染みこんだマフラーを返そうか迷いながら見上げると、「それ巻いてて。クラウド寒そう過ぎて見てる俺まで寒くなる」と笑った。
「ありがとう。返すのもったいないなあ、あったかいし上等だし」
つられて軽口になったクラウドに「それ、お前にやるって。俺同じようなのいくつも持ってるから」とザックスもどうでも良さそうに返事をする。

「さ、美味いピザでも食いに行こう!このちょっと先にいい店出来たんだ」

暖かいマフラーに顎を埋めながらザックスと他愛ない話をしていたら、クラウドもだんだん明るい気分になってきた。
会うのは久し振り。
この前会ったのは確か秋の初めだった。

ザックスはミッションから帰ると必ずクラウドに連絡を入れ、食事を一緒にする。

去年のクリスマスの話は今まで一言もザックスの口から出たことはない。

(考え過ぎ。俺たちはいい友達なんだ)
隣を歩くザックスをちらっと見上げると、機嫌良さそうに鼻歌なんか歌ってる。
黒髪が風になぶられ、耳から首筋の筋肉のラインが見える。
(ザックスの肌は小麦色でけっこうすべすべしてる)
熱い肌、流れる汗、ぴちゃりという舌の音、そして……。
ふとまた去年の記憶が湧き上がってきたので、クラウドは首をぶるんと振った。
「ほら、ここ曲がるとすぐ」
店は小洒落た構えで、入って行くと女性客とカップル客ばかりだった。
(多分いつもデートに使ってる店だ)
意味なくぎゅっと胸が詰まった。
美味いんだぜ〜、生地がまたいい味でさ、といつもと変わらぬ口調のザックスに少し気を取り直した。



ザックスの言う通り、ピザは最高だった。
冷えたビールを昼間から飲むと気持ちも緩んでくる。
ザックスはまるで上の空といってもいいくらい陽気だった。

「でさあ、マジでカンセルって情報通。俺アイツのメット、何かの端末でも仕込んであって、こっそり見てるんじゃないかって思った」
二人共通の知り合いのカンセルの話で盛り上がった。

ピザも食べ尽くし、クラウドも寛いできた時、ザックスが突然クリスマスの話題を降って来た。
「なあ、クラウド、クリスマス俺んち来ない?」
「え?」
去年のクリスマスの記憶がザックスの白い歯を見た瞬間また湧き起こってきた。
(あの歯。俺を噛んだ。うなじから肩を。胸元を引っ張られてシャツのボタンがピンと飛んだ……)
思わず目を見開きザックスを見つめると、ザックスはへらへらと笑った。
「ちょっとしたホームパーティ−するから。クラウドも気楽に来て」
なんだ、親しい友人を招いての部屋飲みかと納得した。緊張した自分がバカみたいだった。
「いいよ、プレゼントは持ち寄り?」
いやいやと首を振ると、ザックスはビールの最後の一口を飲み干した。

「林檎一個でいい。マジ」

「俺の経済状態に同情したろ」

「もちろんだよ!トモダチだからな!」
「じゃ、行くわ」

ーーー肩の力抜かないと。

空回りしないように己を戒めた。
割り勘でいいと言い張るクラウドにツケにするからといながらザックスはピザ屋の代金を全部支払い、二人は手を振って別れた。
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