ミッドガル雑記;ミッドガルの12ヶ月
□2015年クラ誕!
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ーーーウータイで神様を助けた……らしい。
ザックス率いる小隊は抵抗するゲリラたちを山の中に追い詰め、山神様を奉る神社に立てこもった戦闘員を全員捕縛することに成功した。
「フェア少佐!7人全員確保しました!」
部下がザックスの前でぴしっと敬礼する。
「護送用ジープに放り込んで本部に送れ。自害されないよう気をつけろよ!」
「了解っす」
「さて、あとはここを焼き払って終わりだ」
今回の戦闘はともかく自白用の戦闘員を確保すること。
たいした傷も負わせず貴重な情報を知っている戦闘員を捕獲できたことにほっとした。
夏のウータイは山の中と言えど暑く、戦闘が終わって引き上げ準備をしていたザックスたちの頭上ではいきなり蝉がみんみん姦しく鳴き始めた。
ザックスのうなじにも汗が絶え間なく流れる。
神社は狭く小さく貧相だった。
こんな神社に立てこもって戦うなんてウータイの戦闘員はバカなんじゃないかと思った。
こんもりした木々に囲まれた砂地の敷地にはまだ銃弾の薬莢がゴロゴロ転がっている。
社は小さく、正面の木格子の扉には弾の跡が生々しく付いている。ガス弾を撃ち込んだので扉脇の土壁は崩れているが、中は意外にも無傷に近い。
(まあ、さくっと終わった仕事だ)
喉の渇いたザックスが辺りを見回すと、鳥居の手前右脇に湧き水の流れる小さな石作りの手洗い場があった。
柄杓が奇跡的に無事にその場にあったので、汲み上げて飲もうとした時だ。
水面に白い着物を着た男が一瞬浮かんだ。
(は?)
黒髪で真っ白な羽織袴を身に着けた男がザックスに何か頼んでいるように丁重に頭を下げた。
(気のせい、気のせい)
ザックスは水面を割って柄杓を湧き水にじゃぼんとつけ、水を汲むと一気に飲んだ。
香り高く冷たい水は甘露のように喉を下った。
(美味い!)
「少佐!そろそろ油撒いて火をつけますので、社から離れてください!」
部下が可燃性の油が入ったポリタンクを重そうにひきずってきた。
さっきの水面に浮かんだ黒髪の男の真剣な表情がふっと頭をかすめた。
「おい、ポリタンクは持ち帰れ。ここは焼かない」
「え!?」
「お前もここの水飲んでみろ。美味いぞ。焼くのはもったいない」
「少佐の命令なら……」
まあ、焼かなくたってどうってことない。
後の憂いを断つためにゲリラ戦の最後は基地を焼き払うことになっている。
(ま、でもここは基地ってわけじゃなし)
そんなわけでザックスは山の中の小さな社をそのままにして部下とともに引き上げた。