ミッドガル雑記;ミッドガルの12ヶ月

□Waiting for so long……(2014 )
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まさか、まさか、ザックスが承諾してくれるとは。

二人でソファーに寄りかかり、バカバカしいお笑い番組を見ている時のことだ。
断られて当たり前と思いながらクラウドはザックスにある頼み事をした。

「ザックス……」
乱暴に開けたスナック菓子の袋に片手を突っ込むと、ザックスは油っぽくてしょっぱいポテトチップを片手いっぱい掴んで口に放り込んだ。
小気味良い音を立てて、ザックスの白い歯がチップスを噛み砕く。
TVではカラフルな服を着た二人組が早口できわどいジョークを連発してる。
「ぎゃははは〜!この二人おもしれえわ!」
ザックスがソファーをぎしぎし言わせながら笑い転げてるので、言い出すなら今だと思った。
断られてもこのタイミングならどうってことない。

「今度のクリスマスさ、一日オレに付き合ってくれる?」

ザックスは一瞬笑うのを止めて、クラウドを振り返ると「いいよ」といいながら指についた塩をぺろりと舐めた。

クラウドは膝の上で握り締めていた拳をほどいた。

「オレさ、クリスマス一緒にいたいって何人かに誘われてて……」
「ガルガル突撃隊、マジ面白いな、今年のお笑いグランプリ総なめってわかる!」
「それも男ばかり。その中に断りにくい奴もいて」
「このツッコミの方さ、なんとゴンガガ出身なんだってよ!」
「先約があるからってうっかり言っちゃたんだ」
「今度サインもらいに行こうかな。オレもゴンガガ出なんですって!」
ほとんど空になった袋を覗き込むと、ザックスは隅の方にある小さな欠片を指で探った。
「ザックスがオレとクリスマス一緒にいてくれるとなんていうか……」
「あ、いけねえ!全部一人で食っちまった!悪い、クラウド!」
「ザックス……、聞いてた?」

ザックスはがさがさと袋を丸めると、ソファー脇のゴミ箱に投げ入れた。

「おおよ。要するに一日お前の『カレシ』の振りすりゃいいんだろ?お前を狙うヘンタイ男どもを撃退するために」
「……ん。まあ……」
「いいぜ、クリスマスの予定もまだ立ってねえし」
ザックスは気楽そうにそう答えると、テーブルの上にある新しいスナック菓子の封をばりっと開けた。


ザックスが他の女といちゃいちゃクリスマスを過ごすのが無性に癪だった。
去年のクリスマスの掛け持ちの話や、高級レストランでの小粋なディナーやら。
「ロマンチックだったなぁ〜」などと言ってはにっと笑ってクラウドを横目でみる。

自分が必死にザックスについて行こうと努力しているのを高みから見てる。
さらには自分の中に生じてきているザックスへのもやもやした物思いを笑われているような。

一緒にいると高まる鼓動とか、指先が自分をかすめるだけで気が動転しそうになることや、そんな初心な気持ちをザックスにだけは知られたくない。


ーーーそう、クラウドはちょっと僻みっぽいのだ。

だからザックスが「自分のカレシ」の振りをしてクリスマスの一日を過ごしてくれるというのはなんともこそばゆくも楽しい気分だった。

「トモダチだもんな」と口癖のように言うザックスとの関係をちょっと変えてみたい……。
なんだか屈折した期待を胸にクラウドはクリスマスを待った。
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