ミッドガル雑記;ミッドガルの12ヶ月

□Happy Christmas(2013)
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クリスマスの前日、ザックスが戦線離脱したという連絡がクラウドに入った。
それも神羅本部経由で。

「任務放棄……、ですか?」
ソルジャー課に呼び出しを受けたクラウドは、渋い顔の統括や眉間に皺を寄せた人事部の部長からまるで「お前のせいだ」といわんばかりの視線を浴びて、身の縮む思いがした。

「ザックスはそんなヤツじゃありません」
拳を握りしめてそう言ってはみたものの、胸に一抹の不安がよぎる。

ーーオレ、毎年クリスマスはクラウドと過ごしたいって思ってさ。
任務前にザックスがつぶやいたあの一言。
その時は今回のミッションがこんなに長引くなんて夢にも思わなかったから、気楽に
「オレも今年はザックスに田舎のクリスマス料理でも作ってやるよ」なんて簡単に答えてしまった。

ザックスは一瞬泣き笑いのような表情を見せ、
「クラウドの料理か〜、食えるものできるのか?」なんていつも通りふざけた口調で髪をくしゃりとつかんだ。
「驚けよ!オレだってやるときはやるんだ」
そして、本当に作る気で今日まであちこち探し回って故郷でよくクリスマス料理に使う香辛料なんか買い集めていたのだ。

「ソルジャーの戦線離脱は重罪だ。あいつもわかってるはずだが」

統括はデスクの上で白く細い指を組み合わせると、デスク前に立ち尽くしているクラウドを眼鏡越しに見上げた。

「ミッドガルに戻っている可能性が高い。万一自死されると困るから、ストライフ、探してくれ。お前ならわかるだろう?」

暗に自分のところに逃げ込むことを仄めかされ、クラウドもムッとした。

「ザックスに限って大丈夫です。きっと戻ります」
自死……。
奇しくも統括のつぶやいたこの一言はクラウドの胸にくさびのように刺さった。

ソルジャーの死因のトップはもちろん戦線での負傷によるものだが、実は二位が、自死なのだ。
精神のバランスを崩し、壮絶な自死を遂げたソルジャーの話はひっそり暗い噂となって神羅の兵士の中で囁かれている。
なぜかソルジャーは死に方も凄まじく、目も当てられぬような状態で自死するという。
ザックス曰く、自分の手にかけた者たちに呪われている、のだそうだ。

ザックスに限って。
そう信じたいクラウドは気もそぞろな敬礼をすると統括の執務室から逃げるように飛び出した。

どうしよう。
ミッドガル中探しても仕方ない。
ザックスのよく立ち寄る場所も気に入りのスポットも熟知してる。

でも……、きっとザックスは自分のところに戻ってくる、自死なんかしない。

ともかく落ちつこう。

クラウドはまずはザックスの部屋に戻ることにした。



初めてミッドガルのスーパーで大きな骨付きの鶏肉を買った。
買い物だけで思ったより時間を食ってしまい、料理を始めたのがもう夕方。

同棲し始めてまだ三ヶ月、普段クラウドは料理をしないので、キッチンの道具はザックスの愛用のものばかりだ。
どうも使い勝手がよくない。

(ともかく料理してみよう)
休みを取っていたので、時間は気にせず料理に励める。

手を動かしていると、暗い物思いも形が定かでなくなり、意識の表面から下層へとぶくぶく沈みこむ。

(ザックスが夢中で凝った料理作っていたのがわかるような)

覚束ない手つきながら、丁寧にレシピ通りを心がけて作れば、徐々に食材は姿を変えていく。

もたもたしていても時間とともにクリスマスディナーっぽいものが出来てきた。
時計を見ればもう9時。
一応出来たものをテーブルに並べてみたが、なんだか冴えない。
色合いは悪いし、形も良くない。
不味そうだ。
(これ一人で食うことになったら泣けるな)
一人苦笑した。

(さて、最後に鶏焼こう)

レンジの目盛りをきちんと合わせ、おっかなびっくり金属皿に乗せた鶏をそっと差しいれた。

(あとは待つだけか)

耐熱ガラスの向こう、鶏がじりじりと音を立てて脂を流してるのを眺めながら、料理に使ったワインの残りをマグカップに入れてぐびりと飲む。

匂いはいい感じだ。

鶏が刻一刻と狐色になっていく様をワインをがぶがぶ飲みながら見ていたので、足音に気付かなかった。

いきなり後ろから羽交い締めにされた。

「犯すぞ、こらぁ」

むっと血と硝煙の匂いが背後からしてくる。

ばりりと上着を引き裂かれ、あっという間にキッチンの床に組み伏せられた。

「ザックス……」
帰ってきた、やっぱり。

「なんで玄関鍵かけておかねえんだよ!誰でもこうやってオマエを背後から襲えるぞ」

乱暴な言葉とは裏腹に、ザックスは泣きそうな顔でクラウドを見つめた。
振り返ったクラウドの唇に冷えた唇が乱暴に押しつけられた。

「メリークリスマス!」
全然メリーな響きのない祝いの言葉にクラウドの胸は締め付けられた。
「メリークリスマス」
固く冷たい床に背中を押しつけられたまま、クラウドはザックスを真っ正面から見据えた。

頬はこけ、顎の尖ったその顔はクラウドの見知ったザックスより年を食って見えた。
たった数週間で。

狂おしくまさぐる手は胸元を這い回り、小さな薔薇色の尖りを見つけると夢中でいじり回した。
「ゴメン、マジゴメン」
さらにザックスの冷えてこわばった手は手荒くクラウドのベルトを外し、気付けば下も全部脱がされていた。

「悪い、クラウド」
かろうじて固い指先が後肛をせっかちにほぐすと、すでに猛った切っ先を押し当てられぐいぐいと突かれた。

「ザックス!」痛みに悲鳴を上げる間もなく、体内に満ちて凶暴な勢いで怒張してきたそれは、闇雲な抜き差しを始めた。
血が……、流れる。
揺さぶられる度に固いキッチンの床に腰を打ち付けられるので、冷たさと痛さに耐えようと歯を食いしばった。

「ダメ、クラウド、目開けて」
いつのまにか固く瞼を閉じていたクラウドの肩をザックス揺すった。

目を開けると狂気を孕んだ蒼い瞳がクラウドを見据える。

「クリスマスだ……」
これのどこがクリスマスなんだよ、と言いそうになったが、ザックスの声が真剣だったので言葉を呑み込んだ。

「次のクリスマスもその次のクリスマスもオレはオマエとずっと一緒にいる!」

ザックスが咆吼した。

腰の突き上げがぐっと深くなり、充ち満ちたものがそこでふるりと震えたのがわかった。

洗い息づかいとともにクラウドの上に覆い被さってきた熱い体をクラウドはただ抱きしめた。

「クラウド、オレのこと好き?」
今更ながら、それもここまでの狼藉をしておきながらなぜ今この質問、と思ったが、クラウドは小さくうなずいた。
「夢を見た」
ザックスはのしかかったまま、クラウドの額に音を立ててキスをした。
「オマエと二人でミッドガルの片隅で小さな店をやるんだ。なんでも屋だ。きっと楽しいぞ」
背中からしんしんと冷たさが伝わり、重みの加わった体がきしむ。
それでもザックスの狂気を帯びた瞳を受け止めながら、クラウドは耳を傾けた。

「でっかいバイク買ってさ、一緒に乗るんだ」
「いいね」
クラウドの答えに気を良くしたように、ザックスは語り続けた。

「一緒にモンスター退治したり、デリバリーしたり……。そんで夜は毎日一緒に眠る」
ーーそうだ、今日はクリスマスだ。夢を見たっていいじゃないか。

ありえない未来に夢を馳せても。

「そして毎年クリスマスにはお互い料理を作り合って祝う。なあ、クラウド。来年はオレがゴンガガ風のクリスマスディナーを作ってやるから」

わかってる。次のクリスマスだってどうなってるかわからない。

でも……、夢は見ずにはいられない。

カチカチとリビングの掛け時計の音がやけに大きく響く。
ザックスはそれきりしばらく黙ったままクラウドの上でじっとしていた。

ボーンボーンと時計が時を告げる。
魔法の解ける時間だ。

ザックスが身じろぎした。
半身起こしたその表情はもうソルジャーのそれだった。

「行かないと」

そう、ザックスは行くのだ。あの酷い戦線に戻って行く。

ザックスはちょっと微笑むと顔で、クラウドに頬ずりした。
「オマエの手料理、食べるヒマなかった」
「不味いって」
「だろうなぁ……」
ザックスはははは、と笑った。

「メリークリスマス」
他に何も言いようがなく、頬をよせてきたその耳元でクラウドは小さく囁いた。

(2013・12・25)UP

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