ミッドガル雑記;ミッドガルの12ヶ月

□2016年クラ誕!
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ザックスと別れてからクラウドの自由度はぐっと増した。
だからと言ってよく眠れるのかというと、それほどでもなかった。
荷物を置いたままにしていた兵舎の四人部屋に戻ったクラウドを、周りは腫れ物に触れるように扱った。

怒りは収まってきたが、代わりによくわからないイライラがクラウドを襲った。
心も体もイライラする。
「お前さ、怒ったマングースかハリネズミみたい」とか友人から変な例えをされた。
ーーーどうせオレは虎じゃない。小動物だよ!

起きていても寝ていても、苛立ちは収まらない。
その上……、寝ていると夜中に、感じるのだ、隣に熱い体を。
「熱い、ザックス、熱い!」
肘打ちをしようとすると、スカッと空を打つ。
体の中からこみ上げる変なものがあり、満たされない感覚がまた苛つく。

(こんな時は仕事に専念だ)
そうだ、今日は誕生日。
ーーーこんな時アイツがいたらさぞ鬱陶しいだろうな……。
そんなことを思いながら夜警の当直に出かけた。
今日の当直はミッドガルを見下ろす神羅ビルの屋上警備。
クラウドの担当は屋上のそのまた上にそびえる鉄塔の一番上。

一人夜空を見上げて風に吹かれるのはいい。

眼下には不夜城ミッドガルが目映い海のように輝く。
(星も見えない)

この人工都市にいる無数の人たちの無数の夢が光りの泡のように輝いている。

(ザックス……)
あんなに濃く人と付き合ったことはなかった。
心も体も。
失った半身は妙に空虚でさらさらとそこから中身がこぼれ出る。

8月も半ばの風は、夜ともなると熱気も失せて秋の気配が微かに混じっていた。

屋上の鉄塔で一人、手すりにもたれると、ひんやりとした金属の冷たさが体に伝わってくる。

ーーー自分勝手なザックス。まとわりついて鬱陶しいザックス。目が合う度に好きだと言ってうるさいザックス。

もし一緒にいたら、自分の誕生日にザックスはどうしただろう、なんて想像してみた。

色々チェックの細かいザックスのことだから、誕生日を忘れるわけがない。
何せソルジャー権限でクラウドのの極秘資料まで全部入手してお守りのようにコピーを持っていたくらいだから。

(本当に迷惑でウルサイ奴だった。いなくて清々する)

ごうと風が吹き抜ける。

ちりちりと肌の表面から体の芯まで冷えてきた。

(昼間はあんなに暑いのに)

今思うと好きなんて言うもんかって意地になってたのかもしれない。

風がひときわ強くなってきた。

クラウドがよりかかってる鋼鉄製の柵がガタガタ震える。

(鉄柵も風で震えるんだよな)
そういえば誰かにアイアンメイデンなんて言われたことがある。
ーーーアイアンってなんだよ。

そうだ、誰かに心を明かしたことなんかない。いつも一人で拗ねたようにしていた。
彼が近づいてくるまで。

ーーーバカ、ザックスのバカ野郎!
なんとなく大声で怒鳴りたくなった。
ーーー別に懐かしいわけじゃないからな!俺の誕生日だからってどうってことない!
それなのにこの空虚さは。

鉄柵の震えはいまや揺れに近い。

ガタガタと規則的に揺れる鉄柵は、風の勢いと合ってない。

音は徐々に近づき、暗くそびえ立つ屋上の鉄塔を揺すぶる。

(侵入者!)

ようやく気付いた。

この揺らぎは鉄塔の外にかかる非常用の梯子を誰かが登ってくる振動なのだ。

肩にかついだライフルをかまえ、梯子を上から覗き込んだ。

「誰だ!」

地上のぼんやりした明かりにシルエットをなし、背中に何かを背負った人影がクラウドを見上げた。
蒼い双眸が輝く。

「クラウド、撃たないで」
懇願するこの声は。
「ザックス……」
情けない声の割りには切れのいい動作で梯子を登ると、ザックスは凍り付いたクラウドの脇にスタっと下り立った。
「なにを……」

ザックスはおもむろに背中に背負っていた荷物をばさりとクラウドに渡した。

それは夜目にも鮮やかなピンクの薔薇の花束。

「お誕生日おめでとう、クラウド」

100本はありそうな薔薇を抱えて立ちすくむクラウドに、長身の影がずいと迫る。

「部屋にはケーキも用意してあるし、シャンパンも冷えてる。あと10分で勤務終わりだろう?一緒に帰ろうぜ」
鉄面皮だ。
なにごともなかったようなこの態度は何だ。

「ケーキはチョコレートケーキだろうな?」
「もちろん!」
胸の奥に満ちたものはこみあげ、涙が頬を伝う。

「好きだ、ザックス」

どぅと風が吹き抜け、二人の間で潰れた100本の薔薇が香った。


Happy Birthday!
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