ミッドガル雑記;ミッドガルの12ヶ月

□2015年クラ誕!
2ページ/9ページ


その晩のこと。
山裾にある簡易基地のテントで寝ていた時だ。
夢にあの白装束の男がでてきた。

『この度は我が社をお救いくださり、感謝の念に耐えません』
『いや、どーってことねえよ。水が美味かったし』
『あの社のご神体はあの湧き水なんです』
『じゃ、よかったな』
『油をかけて燃やされたらもう復帰できないところでした。お礼申し上げます』
『いいってことよ。律儀な神様だな、礼に来るなんて』
『お礼にあなたの望みを一つ叶えましょう』
なにやら不思議な展開になってきた。これは……、昔話によくある恩返しのパターンでは!
ザックスの胸にあることがむくむくと湧き上がってきた。

そう、神頼みもいいかもしれない。
今も胸を占めるあの金髪の少年の気を引くためなら。

先日のミッションで一緒になってから魂のほとんどを持っていかれた。
輝く金色の髪、白皙の頬、そしてあの瞳!深山にひっそり人知れずある澄んだ湖のような。
最初は親しげにしてくれたのに、最近はほとんど避けられている。
メールをしても返事は「はい」とか「無理です」と一言だけ。
彼に近づきたい、それも無防備な彼に。

『神様、変身ってできる?』
『私は神です。不可能はありません』

確かクラウドは犬が好き、って言っていた。

来るクラウドの誕生日、一日まとわりついていたい。
自分が何誘ってもどうせ冷たくされるのは今までの経過から目に見えている。
それなら犬になって一日一緒にいたい!クラウドに頭を撫でてもらったり一緒に散歩できたら悶死ものだ。
そして……、クラウドの誕生日を祝おうと近づいてくる奴らを撃退してやりたい!
ちょっと僻んだ悲しい願いかもしれないが、クラウドと一日いちゃいちゃできるなら(たとえ犬の姿でも)本望だ。
『8月11日、一日犬にして』

『お安いご用です』
神様はほとんど安請け合いといった勢いで承諾してくれた。
『では』
ザックスの額にとん、と白い指を押し当て、神様は何かウータイ語でつぶやいた。
『8月11日お前は犬になる』
そう言われたような気がした。
その日休暇を取っておかないとな〜、年休まだあったかな、などとザックスが具体的なことを考え出した時には神様はチラチラ光って消えていった。



それから一週間以上経っていたので、ザックスもそんなことはほぼ忘れていた。
明日は8月11日。
愛しいクラウドの誕生日だ。

ベッドに寝転んで端末を見ながらため息をついた。
クラウドからの返信をまとめて読んでいたのだが、脈のないことはなはだしい。
ともかく返事が短い、そっけない。一応きちんと返信はしてくれるものの、行間に気持ちを読む事も不可能だ。
一行しかないから。
噂によるとクラウドはその美貌から男どもに数多言い寄られ、ノイローゼになりそうになっているとのことだ。
自分もそんなヘンタイの一人と思われているのだろうか。

ひそかにクラウドに誕生日プレゼントまで買って用意した自分がバカみだいだ。

クラウドが欲しがっていた耐水耐圧耐熱の時計。
どう会って渡そうか。
悶々として眠れぬザックスは一人飲みに行くことにした。

クラウドのいる兵舎近くにある小さなバーで考えていればいい知恵も浮かぶだろう。酔っ払った勢いでクラウドを呼ぶとかクラウドのところに押しかけるとか。(どっちもいい知恵じゃ

ないけど)
ザックスは胸ポケットにプレゼントを押し込むと夜の街に出かけた。


しんとした街をブラブラ歩き、クラウドの兵舎のすぐ近くにまで来た。
もうすぐクラウドの誕生日だっていうのに、何の進展もないどころか、浜の真砂のごとくうようよしているクラウド狙いのヘンタイの一人と思われているのかもしれない。

出会ったばかりの頃はもうちょっと愛想がよかったのに。
ザックスは大きなため息をついた。
一目惚れと言われてしまえばそれまでだけど、こんなに一途に一人の人間に思いを寄せたことはかつてない。

胸ポケットにプレゼントを入れたまま、ザックスは兵舎近くの金網張りの裏門近くに立ち尽くした。

どこかで12時の鐘が鳴っている。
ボーンボーンという微かな音が真夏の夜の空気を微かに震わせた。

ザックスの周りに淡い薄緑の光りの粒が集まってきた。
(ん?蛍かよ、ミッドガルに)
それはどんどん増えてきて、目映いばかりに輝きザックスの体を覆い尽くした。

(なんだ〜!?)
体の芯から捻れるような奇妙奇態な感覚が押し寄せる。まるで体内から引き延ばされたり縮められたりしてるような。

ぐっぐっぐと体が縮む。
それはザックスの全存在をねじ曲げて叩いて伸ばして作り変えた。

鉄槌で体中殴られているような痛みの中、ザックスの意識は遠のいた。

(痛みは仕方ない。お前の願いは高度の魔法を要求するのだ)
どこかで声が聞こえた。
(願いは叶った。私からの礼だ)
あれ、ウータイの神様、本当に願い聞いてくれたんだ……。
意識の落ちる寸前、鼻腔になだれこんできた大量の匂いの中にクラウドの匂いをみつけた。

(近くにクラウドがいる……)
ザックスは意識を失った。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ