オリジナル小説置き場
□君を想う、その先は
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ごくごく普通な朝。
何が起きる訳でも無い平和な朝。
『何でも無い朝こそ一番の幸せ』
親父殿の口癖だ。
子供としては、刺激が欲しかった。
「コウ、お隣さんに挨拶してきなさい」
「お隣は空き家だろう。」「引っ越してきたから挨拶に行くんでしょ?」
「それはそうだけど…」
「はっきりしなさい洸汰・L・八木澤!!」
そう、彼はあの2人…
レイキ・ヤギサワとシェリル=ルナティークの息子である。
「お隣つったって、かなり遠いっつーの!」
と、ぼやきつつ…洸汰は歩いていく。
ドアをノック。
返答は無い。
もう一度ノック。
「あのー…」
後ろから声がした。
後ろから声がするということは、邪魔になっているということで。
「ご、ごめんなさい!」
洸汰は慌てて避ける。
「いえ、大丈夫です。
…あ、もしかして」
栗色の長い髪の、
洸汰よりも少し年上の女の子が
視線をまっすぐ洸汰に向けている。
「やっぱり。
洸汰君だよね?」
「はい、洸汰・L・八木澤です。」
「Lはルナティークの略?」
頷く。
「懐かしいなー!
わたし、君が小学生のとき、シェリルさんの代わりに家事やったんだよ。」
洸汰が小学生のとき、シェリルは入院した。
そのときに家事をやってくれた女の子がいた。
彼女にとって、シェリルは恩人で、
シェリルに恩返ししたかったとか。
そんなこと、忘れていた。
しかし、今は昨日のことのように思い出せる。
「ヒメ=イズミヤ(泉谷翡明)。
大きくなったね、洸汰君。」
「(マジかよ…)」
洸汰は内心叫んだ。
今の今まで忘れていたことなのに、当時の想いが止まらない。
少し年上の女の子。
あまり変わらないのに、とても大きく見えた。
その子の背を見るのが好きだった。
あれがお姉さんだと思っていたのは、そのせい?
憧れの女の子が、隣に引っ越してきた。
このベタな展開、
だけどもの凄い刺激。
これからの日々に、洸汰は胸を踊らせた。