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□第五話
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男の周りには屍が散乱していた。
屍はみな綺麗に急所のみを斬りつけられ、一見だけではこの屍が他殺であるとは見抜けないだろう。

ふと今までピクリともせずただ大空を見上げていた男が腕をブンと振り、その延長線上にある刀身についた血を払拭し、そのまま流れるように刀身を鞘に戻した。

「魔法、使わないんですか?」

いつの間にか、男の傍らにもう一人男が立っていた。問われた男はチラリと現れた男を一瞥し柏手を打った。

その瞬間、周りに散乱していた屍が青い炎と共に燃え塵になった。

「今、使った」
「いや、そういう事じゃなくて…はぁ、もう良いですよ。局長、気が済んだなら帰りましょうよ。ここにいても、もう何もないですよ」

局長と呼ばれた男はその声かけに応えず、無造作に咲いていた野花を一輪手折り、それを地面にそっと置いた。

「人を殺すことに魔法を使いたくない。そりゃ、使わなくちゃならないときもあるけど、出来るだけ避けて通りたい」

小さな声だった。意識して聞かなければ聞こえないような小さな声だった。
それからほんの数秒、男は目を瞑り自分が殺した死者たちを悼んだ。

目を開けた時、男の纏う空気に先程までの空気はなかった。男はうーんと伸びをして傍らに立つ男をそこでようやく見た。

「待たせたな、ウィル。それじゃ帰るとするか!」

ウィルと呼ばれた男は、ようやく自分を見た自分より年若い上司に心の中で安堵の息を吐いた。





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