Miyabiの図書室
□冬の音色とともに(1/27更新)
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私の両親は共働きで、母は決まって保育園の6時半の鐘がなる少し前に、いつも迎えにきてくれていた。
里子ちゃんのお迎えはいつもお手伝いさん。お迎えの時間は最終の6時半と決まっている。
その時間になると、もう殆どの子供はお迎えがきて、里子ちゃん一人になることもしばしばだった。
「里子ちゃんのお迎えまで、お残りするっ」
私はよくそういって、夕食の支度を急ぐ母を困らせたものだった。
「どうして里子ちゃんのお迎えはいつもお手伝いさんなの?」
ある日砂遊びをしている時、私は以前から不思議に思っていたので、里子ちゃんに尋ねた。
里子ちゃんは一瞬口ごもったけど、笑顔で私に答えた。
「お母様、病気なの。」
私は、聞いてはいけなかったような、悪いことをした、幼心ながらそんな気持ちになった。
「早くよくなるといいね。」
里子ちゃんはうんとだけ言って、私に微笑みかけた。
その日の帰り、私は母にその事を話した。
母は、少し考えた顔をして私に言った。
「人はね、誰にも知られたくないこともあるのよ。だからそっとしてあげなさいね」
私は母が言ったその言葉の本当の意味が、わからなかった。