Miyabiの図書室

□poison
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(やっと、休みだぁ〜。さ、尚のお迎えまでは、少し時間あるから、ちょっと

 ハーバーでもよって時間潰しでもするか・・)



尚は、去年の春から付き合っている私の彼女だ。


年1回、商工会主催で女性起業家の親睦を目的とした名刺交換


会と立食パーティがホテルで行われる。その日、尚と知り合った。


色々な業種の会社、店舗を営んでいる経営者達。年齢もとても幅広く


下は20代から、上は70代と普段なら、余り会話が成り立たないような年齢の


人たちが集い、挨拶を交わす。特にまだ、会社や店を興して間もない、ひよっこ起


業家たちは、どれだけ名刺を貰えるのか競うかのごとく、必死に自らの顔を売り込


んでいる。何事にも一生懸命で、私も見習わなくちゃと思うくらいだ。


私なんて、初めて参加した時は、緊張というか、どうも何を話したらいいのか


わからなくて、向こうから挨拶され、慌てて名刺入れから、自分の名刺を出し


「初めてなので・・よろしくお願いします。」とカチンコチンになってしまって


いたものだった。


今では、もう恒例となっている懇親会では、顔馴染みもできて、この懇親会で出会


っがきっかけで、ビジネスに結びつくこともしばしばだった。


私が営むのは、レディスオンリーの広告代理店。小ぶりな会社だからこそでき


る肌理細やかなサービスと良心的価格を売りにしている。


その日は、何となく気分が乗らないので、取引客だけに挨拶をして


早々に切り上げ、会場をでた。エレベーターを待っていると後ろから声がした。



「すみません・・あの・・これ・・・」


そこには、新入社員って感じの、リクルートスーツっぽい紺のスーツを着た、うい


ういしい感じの女の子がそこに立っていた。


(ん・・・あれ?・・・えっ?・・・)


その子の手に、見覚えのある化粧ポーチ。ん?あっ、私の化粧ポーチだ。


「あっ、ごめんなさい。トイレに忘れてきちゃったのかな。」


「さっき、出て行くが見えたので、もしかしてって思って。良かったです


持ち主が見つかって。」その女の子はにっこり微笑んで化粧ポーチを


加奈に手渡した。


「ありがとう。ちょっと、ボーっとしててね。明日化粧できないとこだったわ。」


「フフフ。いえいえ。」


二人は、エレベータに乗った。少しの沈黙・・・。エレベーターの降りていく階の


ランプを目で追う。加奈は、ふと尚を見た。


(鼻筋が通った、綺麗な顔立ち・・それにしてもこの子、すごくまつ毛長い


んだな・・。)


尚は加奈の視線に気がついたのか、二人は目が合ってしまった。


(何かじっと見てたのバレちゃったかな・・まずい・・何か話さなきゃ・・)


「今日は、名刺交換会参加してたの?同じ階だったから。」


「実は私、別の階のフロアーで研修があったんですけど、ちょっとお痛く


て・・。同じ階だと恥ずかしいから、別の階にきてたんですよ。」


少し顔を赤らめながら、尚は目を伏せて笑った。


(可愛いな・・。恥ずかしいそうな顔も。フフ)


「フフフ。そうだったの。そういうの分かる気がするわ。違う階に行きたい気分」


「でしょ。なのに、友達は、勝手に帰ったって思ったみたいで・・電波悪かったみ


たいで携帯繋がらなかったらしくて、もう電車に乗って帰っちゃったらしいんで


す。私も、何も言わないで別の階にいったから仕方ないんですけどね。(笑)」


「フフフ。でも、そのお陰で私は、明日化粧できることになって良かったんだけど


ね。それも運命だったかも知れないわね。」


「あっはっは。そうですね。」


二人は、何気ない話をしながら、ホテルのロビーを抜けて、正面玄関まで歩いた。
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