Miyabiの図書室

□あなたへの想い
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3年前・・・・・


旅行代理店で勤める知り合いの紹介で日本を離れ、そこで働くことになった。


英語は、会話程度に嗜むことはしたが、インドネシア語は聞いたこともなかった

ので、就職が決まってからというもの、忙しい毎日だった。


インドネシア語、おまけに、ヒンズー教徒が90%というバリ島では、生活するに

おいての、ある程度の宗教的知識をつけることも必要だった。


珠美は書店に行って、バリの文化、風習などの書かれた本などを買いあさり

殆どは、インドネシア語の習得に、時間を割いた。



その日は、頭の切り替えも大事と、久しぶりに一人、スーパー銭湯に出かけた。


友人から、結構お薦めのスーパー銭湯だと聞いていたので、


少し遠いが足を伸ばして、行って見ることにした。



最寄駅から、送迎用のバスがあって、それに乗り込んだ。


大阪にこんなとこがあったのか・・・と思えるくらいに、


バスからの景色は、自然が一杯だった。


ちょっとした小旅行に出かけた気分になって、珠美は少し嬉しかった。



バスを降りた珠美は、大きく息を吸い込んだ。


(はぁ〜。山の匂い・・)


珠美は、玄関で靴を脱ぎ、靴箱に入れた。


(あっ・・100円いるのか。)


慌てて、財布を取り出した。


(えっと・・10円玉・・これ50円玉・・1円・・・。ない・・・)


ゴソゴソ財布の中身を探っていたその時、背後から声がした。



「100円無いなら、これ。」


「・・・・あの・・両替してき・・ 」


珠美は、最後まで言葉を伝える間もなく、その女性は、


いきなり100円手渡したかと思うと、さっさと中へ消えていった。


(後でかえさなきゃ・・)



フロント前の券売機で、入浴券を買って、靴箱キーを渡し、脱衣ロッカーの鍵を

もらった。


お風呂は2階、3階らしい。


どうも、ここは天然温泉らしく、3大美人の湯と言われる○○温泉と同じ

泉質で、それより濃度が高いらしく、療養温泉として、登録されているらしい。


そしてパンフレットには、ここの女将が龍神様の夢でのお告げで掘ったと言う

不思議な話が書かれてあった。

そう言えば、建物の横に、龍神様が祭られてあった・・


(へぇ〜。そんな不思議なことってあるんだなぁ・・)



珠美は、2階から順番に温泉に入った。


(あの人、どこにいるんだろう・・)


さっきの女性は、3階の露天風呂にいた。平日の昼間なので人も少ない。


珠美は、ゆっくりその女性に近づいた。


「あの・・さっきはすみませんでした・・」


その女性は、そっけなく答えた。


「いいよ。別に気にしないで。」


「後で、必ず返しますから。」


その女性は、目をつむって何か考え事でもしているようだった。


珠美は、のぼせそうになったので、その女性に、また後でと言い


立ち上がった。


「きゃーっ」


バッシャーン


珠美は、足を滑らせて、湯船に顔面からこけた。


「大丈夫?」


その女性は、珠美の手をとって、起こしてくれた。


「・・・すみません・・大丈夫です・・」


その女性は、珠美がどこも打ってないし、怪我をしてないことが分かると


お腹を抱えて笑い出した。


珠美は恥ずかしくて、どこかに潜ってしまいたい気持ちだった。


「ごめん。あんまりおかしくて。。アッハッハッハ」


「・・・・・・」


「だって、だってさ、普通滑って転ぶって身体後ろにいくのに、顔面から


つっこんでいっちゃうんだもん。」


その女性は、お腹がよじれると言いながら、まだ笑っている。


それを見て、珠美も自分のことながら、おかしくなってきて、一緒に笑った。


「あなた、面白いわね。」



その事がきっかけになって、智子と話すようになった。
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