Miyabiの図書室
□紫陽花の涙(更新中)
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理奈のデスクの内線電話が鳴った。
受付からだった。
今日は、社内報印刷業者との打ち合わせ日。
今日は受付前の打ち合わせ室が一杯らしく、第一応接室に通したということだった。
出来上がった原稿と、筆記用具などを持って理奈を応接室に向かった。
応接に入るとやはり中野はいつもの出で立ちで、少し低めの応接テーブルに打ち合わせ書類を準備している最中だった。
普通の会話中心の打ち合わせなら応接でもいいのだが、細かい記事のチェックをしながらの打ち合わせともなると、
応接室は、テーブルとの距離がありすぎるし使い勝手が悪い。
「ここでは打ち合わせしにくいですよね。会議室空いてるか確認して、そっちに移りましょうか」
理奈は、内線電話を使って会議室の空きを確認したが、使用中とのことだった。
「仕方ないですね。隣に座りましょうか」
理奈は、中野の隣の応接ソファに腰かけて打ち合わせに入った。
今月は慌てた作業もなかったので、その日の打ち合わせは短時間で終わった。
二人は、何気ない雑談をしながら笑顔で会話していた。
そう言えば、こうやって隣に座って話すっていうのは初めてかも知れない。
紺のスーツのスカートからチラリと見える太腿は、適度な肉付きで、ストッキング越しなのに、肌が艶っぽいのに驚いた。
それに、とてもいい香りがする。何かゾクっとするような魅惑的な香り。
薄化粧の中野からはイメージし難い香りだと理奈は思った。
その時、この間ランチで見かけた時のことを思い出した。
「もしお吸いになるんでしたら、どうぞお気遣いなく。」
理奈はそう言って、中野の前に灰皿を置いた。
「ありがとうございます。でも私、煙草は吸わないですから。」
中野は、顔色一つ変えることなく理奈に言った。
理奈は、いつも真面目そうに仕事一筋のように見える中野に少し意地悪してみたくなった。
というか、同い年で、ビジネス絡みとはいえ、結構仲良くしていたつもりだったのに、
そんな嘘をつく中野に、正直に言わせたかったのかも知れない。
「そう。中野さん、そこの地中海料理の店のシーフード冷麺食べました?最高ですよ。あそこの冷麺」
理奈は、微笑みながら中野に話を振った。
「え?この近所のですか?」
多分、ビジネス上の付き合いの中で余り知られたくないのだろうか。
「余りこのあたりの店に入らないので、食べたことないですね。美味しいんですか?その冷麺。」
余りに素で答える中野に、理奈はちょっとがっかりした。
もしかして、あの後ろ姿人違いだったのかな?
理奈は、少し自信がなくなってきた。
「是非、機会があったら食べてみてください。ほんと美味しいですから。良かったら今度ご一緒しましょう。」
結局、そんな当たり障りのない話で終わってしまった。
「では、この原稿で来週水曜日夕方になると思いますけど持ってきますから。最後のチェックだけお願いしますね。」
「お疲れさまでした。」
中野は、深々と頭を下げそのまま応接室を後にした。