Miyabiの図書室

□逢瀬の痕
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真里菜は泣いた。

外は、木の葉が激しく揺れる摩擦音と 風と雨が全てを叩きつける音。

私は、

帰る当てもなく、ずぶ濡れで彷徨い歩く

寂しい迷い犬。


全身を振るわせながら、フラフラと彷徨う

野良犬なんだ・・。


「お姉様ー」


全身の力を振り絞って真里菜は叫んだ。


飼い主を探す、迷い犬の遠吠えのように。


真里菜は手首を見た。


そこには、残された痕だけ・・もう何もない。


首輪を外された、捨て犬なんだ・・。


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あの日も、台風で雨も風も強くて

おまけに傘はいつもの愛用のコンビニ傘。


「きゃっ」

 ボキっ

「あらあら・・。大丈夫?」


振り返るとそこには、確かマンションの隣の人。

真里菜に傘を差しかけてくれている。


名前は何だったっけ?

挨拶くらいしか交わした事ないけど・・。

清楚な綺麗な人・・・。


OL1年生の真里菜は、一人暮らしを初めてまだ半年。

今年大学を出て、某OA関連企業に就職したばかり。

実家は同じ関西だが、通勤2時間。朝8時30分の朝礼に間に合うには

大変で、反対する親を説得して、家賃は折半ということでマンションを

借りてもらった。


大学時代に彼氏に買ってもらった、ヴィトンの傘を通勤途中で無くしてしまって

無くすくらいならとコンビニ傘が愛用となっていたけど

こんな台風の日には、やっぱりモロい。


「これ、良かったら使って。」


お隣さんは、鞄から折りたたみ傘を取り出して真里菜に手渡した。


「あっ。ありがとうございます。」


「もう5分もすればマンションだし、折りたたみだけど何とかなるかしらね。」


慌てて真里菜は、借りた折りたたみ傘を開いた。


「さ、早く帰りましょう。」


お隣さんは、にっこり微笑むと、小走りにマンションに向かって行った。


(はぁ。助かった。後で乾かして返しにいかなきゃ。)


マンションに着いた真里菜は、キーケースを探していた。


いくら探しても見当たらない。改札でる時あったのに・・。


ガサゴソ  ない・・・。


どっかで落としたのかな・・。


ガサゴソガサゴソ  え・・困ったな・・。



ガチャ


着替え終わった、隣の住人さんが、不思議そうに覗いていた。


「どうかした?何かゴソゴソと音がするから出てきたんだけど。」


「鍵。どっか落としたみたいなんです。」


真里菜は、困ったようにバックを探りながら答えた。


「びしょ濡れだし、風邪ひいちゃうわ。取りあえず部屋にあがって。」


その綺麗な隣の住人は、にっこり微笑んで真里菜に言った。


真里菜は少し躊躇した。でも、その笑顔に吸い込まれるように

真里菜は、隣の玄関へと歩いていった。


玄関には、Sasakiと書かれてあった。
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