その他短編

□運命論
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「"運命"って何だと思う?」


始まりは、クレアのこの一言だった。
丁度同じ席で昼食を食べていたグレイが箸を止めて不思議そうに眉間に皺を寄せる。
きっと彼は何言ってんだ、みたいなことを考えているのだろうななんて思いつつクレアはもう一度問う。


「"運命"って何だと思う?」

「……そりゃあ、まあ……"これからどうなる"とかそんなもんか?」

「そうだね」


眉間に皺を寄せたままのグレイが捻り出した答えに金色の髪を揺らしてクレアはそれを肯定するよう頷く。彼女が見せたのはたったそれだけの動作、言葉だけ。
つくづく、彼女の思考の意図は良く分からない。昼食を口にすることも忘れ、グレイは黙り込む。
クレアに向いていた視線は勿論別の方向へと自然に逸れて行く。
正直なところ、この空気は居辛い……そう思う。でも、あからさまに視線を背けたのは駄目だったよな――と横目にちらちらとクレアの様子を伺う。
しかし当の本人はそんな心配など不要だと言い捨てんばかりに優雅にコーヒーなんて口にしている。そういえば、彼女は飄々としており"良く分からない人"だった、とグレイは肩を落とす。
そんなグレイの様子をカップの向こう側から見つめるクレアは彼に気づかれない程度に目を細めた。そんなことをせずとも他人の感情の変化には疎いグレイが気づくはずもないのだが。
彼女はどうやら先ほどの肩を落とす仕草の中から複数の感情……例えば安心や脱力などを見出し、面白いと感じたらしい。
この様子を別の人物が見れば、きっとその人はグレイとは違った印象を彼女に持っただろう。
すっかり空になったカップの音をカチャリと鳴らしてクレアは両手共頬杖を突き、その上にあごを乗せてやっと口を開く。


「人の運命はこの世に生を受ける……或いはそれ以前に定められ、人の力では変えられないその道に従って生きていくのよ」

「……今度は何だ」

「さて、この考え方を何と言うでしょう?」

「クイズかよ……」


突拍子もない言葉にグレイはクレアの方を向き直し、少し間を挟んでからぶっきら棒な返答を短く返す。
しかしクレアの方はそんな彼の様子など予想済み、或いは完全に聞こえなかったふりをしているように言葉を続け、グレイのいうようにまるでクイズを出題するように質問を投げかける。
面倒くさそうにぽつりと呟くグレイだったが、彼は机に片腕を乗せて、律儀にも回答を考えているようだった。
クレアはグレイのこういうところが好きでもあった。どれだけ難しいことを言っても、絶対に知ることのないようなことを言っても、必ず一度は考えてくれるのだ。
今度は隠さなかった笑みに気づいたグレイに何でもないと答えながらクレアも瞳を閉じて思考を巡らせる。勿論、正解を知る彼女が考えることは別のものであったが。
暫くその状態のままで時間が経った。無論周りから見れば、変としか言いようのない光景だ。
と、その時グレイが一つ溜息を吐いた。それには、諦め……もしくは疲れが溶け込んでいる。


「分かんねぇ」

「……そう」


相変わらず素っ気無い単語で告げるグレイがクレアの方へと視線を滑らせる。
何時の間にか片腕に減った頬杖の上に乗った端麗な顔立ちの要素の一つ、透き通った青い瞳は未だ閉じられたまま、彼女は珍しく淡々とした返答を呟くように返す。
彼女はどうやら真剣に何かを考え込んでいるようだ。クレアは何があろうと相手が誰であろうと笑顔で接するような人だ。――言葉の内容なんかは別として。
何考えてんだろ……、なんてクレアをじっと見つめながらグレイが思ったその瞬間だった。
彼女は急に瞳を勢い良く開いたと思えば驚きに瞳を見開くグレイの方へと向き、ぐっと何かに詰まるような仕草の後、意を決して言葉を紡ぎ出す。


「う、運命がねっ」

「あ、ああ……」

「本当に、決まってたら……。こういうことを考えることも、決まってたのかなって……思って」

「……こういうこと?」


そう、と頷く彼女曰く、
運命について考えることがその道に定められたことだと、思うこと自体が"定められたことだ"ということ。
ややこしいこと極まりないが、つまりは考えることが定まっているということを考えることも運命に決められた道なのかということ。……という意味なのだろう。
それで……。と妙に納得したようにグレイが帽子を少し上へと押し上げる。
きっとクレアは定められたことを考えることが定められたことだと考えることが定められたことだと思い続けてしまったのだろう。
それは勿論、答えが出てくることのない問題だ。そう言ったグレイにクレアは疲れたような面持ちでこくんと同意の意味を込めて頷いた。


「でもさ、意味が分からないからこそミステリアスって片付けられることもあるわよね」

「まあ、分かり切っていることをミステリアスとは言わないし、言えないな」

「そうでしょう? だから、これはこのままで良いのかもしれないわ。考えるだけ無駄って気がしてきた」

「いや、最初から無駄だと思うけど……」

「あ、そうだ」


グレイから見れば十分ミステリアスなクレアが何かを思い出したように声を上げた。
今度は何だ? とグレイが言うと彼女は先程見せた疲れなど微塵も感じさせないような笑顔を浮かべて告げる。


「さっきのね、運命論って言うのよ。全ての物事が決まっているという考え方。
 私ね、正直あまり信じてなかったのだけど…一つ信じてみたいこと、出来たの」


また突拍子もないことを言い出した、と思ったのも一瞬。
この後彼は、まるで何ということでもない普通のことを言うように続けられたクレアの言葉に散々悩まされつつ、すっかり冷めた昼食の残りを火照った顔で食べることとなるのだった。


「もしね、定められた運命があるなら、
 その先の道がグレイと一緒になれば良いなって!」






【運命論】
(は……、え。ちょ、クレア!)
(なぁーに? そんなに慌てて)
(今の、な……ええ!? 何だ!?)
(何って、唯の告白? ……というか、昼ご飯さっさと食べたらどう?)



+ + +

いえーい一ヶ月ぶりでーす(一遍切腹して来い)
今回は…いえ、「も」ですね。今回もグレクレです。まあ一見すればグレ←サドクレ(待てもるあ)な訳ですが、れっきとしたグレクレだと主張します((

さて、今回はお気づきの方も居られる事かと思いますが兎に角描写を何時もより多めに!を目指してみました。ほぼ内面描写ですね。性格描写とか。…乃島は内面描写とかそっちのが得意らしいです( 今 更 )
自分なりの書き方って何だー? というのがきっかけです。たまには別の書き方も良いですねv
あ、ちなみに難しい単語は使わないように頑張ってみました。よく分からない単語があると文章が分からなくなったりするかなー…と!

…と、この話は語りっぽかったですね。運命論についてのお話。
ちなみにクレアが「定められたことについて考えることが定められたことだと考えることが定められてる」とか考えてたと思うのですが、
あれは乃島です。乃島が随分昔からやってきたことです。何かあれば考えてます。そしてぼーっとして人の話が聞けてない(駄目子)
あれ、考え出したら止まらないんですよ。定められてることを考えることが定められていると考えることが定められているということだと考えることが(ry)みたいな!(←ややこしい)

以上、ややこしい話でしたっ!(意味不明とも言う)


2009.09.05 音成 舞綾(転載日時)

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