その他短編

□君の一番大好きな人
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あのね、スキって色んな種類があるんだって。

僕じゃ、『大好きな』君の一番にはなれないけれど、


本当に大事な人が出来るまでは、君が僕の一番だから。




「……リア、アリア」

「ひゃあっ! な、何、アルス……」


大好きなお菓子が目の前にあるにも関わらずぼーっと上の空なアリアを見かね、双子の兄アルスが声を掛けた。
その表情は何処か苦味と心配を含んだ笑みだ。何時もの兄の表情。優し過ぎる性格がよく出ている。
大丈夫? と首を傾げる彼は活発で明るいアリアとは、外見は似ていても中身は似ていないと学校や町でもよく言われる。

そんな彼の今の笑みは、昔泥まみれで帰宅したアリアに向けられたそれと殆ど同じだ。


「アイス……溶けちゃってるよ? 食べないの?」

「わわ、本当だ! た、食べるよーっ」

「……珍しいね。アリアがアイスを溶けるまでに食べ切らないなんて」

「そう言うアルスは今日は垂らしたりしなかったんだね。量減らしたんだっけ」

「ぼ、僕ももう、服汚したりはしないよ? ……洗うの、結構面倒だしね。お母さんだって色々忙しいのに」


休日というのに、彼らの母親兼教師のマナは授業で使う材料を採りに行った。
アルスは、そんな彼女に洗濯は頼めないけど、でも自分で洗うのも面倒らしい。どうやら量を調節しながら食べているようだった。
アリアだったら、きっと考え付かないアイディアだ。

はあ、と一度アリアが深いため息を吐いた。
やっぱり様子がおかしいと思ったアルスがもう一度大丈夫? と訊ねる。
先ほどは何も言わなかったアリアだったが、今度は反応を返してくれた。
言葉ではなく、途轍もなく痛そうなよくある効果音で。


「……痛い」

「あ、当たり前……じゃないかな。机に思いっきりぶつけて『ゴン』っていったよ? 頭」

「うん、痛い。凄く痛い」

「……やっぱり、何かあったの? 今日のアリア、何時も以上に変だよ」

「え、何。それ、私が何時も変ってこと?」


一瞬にして空気が変わる。
先ほどのぼんやりとした雰囲気はアリアからアルスへと。
真顔でアルスの方をじっと見つめる。その表情は確信はないのだが、何か途轍もない圧力があるように思う。

こうなったアリアは結構しつこいということをアルスはきちんと理解している。
この前も、給食のデザートを多めに食べたロイに対して、確か似たような表情でじっと見つめて……否、この場合は睨んでいたという表現が正しいだろうか。
未だに彼女はロイに対して少し拗ねたような態度を取る。
それだけではない。
自分より料理の上手なリーンやアルスに対しても、アリアはその授業中明らかに口数が減るし、
オルファスに対してなんか、常に敵対意識剥き出しだ。馬が合わないのか、気が合いすぎるが故のすれ違いか。

兎に角、アリアは一度始めてしまえば気が済むまで止まらないタイプなのだ。
我が妹ながら、とアルスは心の中で肩を落とした。


「そ、それよりアリア。……アイス、もう飲み物になってるよ?」

「え、……ああっ!」


アイスのことなどすっかり頭から抜け落ちていたのだろう。
ガラスの皿に入っていたバニラアイスは既に白い飲み物と化してしまっている。
秋とはいえ、まだ暑さの残る今の季節。あんなに長時間放置していれば溶けてしまうのも無理はない。

すっかりしょげてしまい、元アイスの皿を両手に乗せて一度見つめた後、それを飲み出すアリアを横目にアルスはほっと一息ついた。
話題を変えることに成功することはない殆ど。今回はきっと運が良かったのだ。


「……それで、さっきからアリアは何を考え込んでるの?」


やっと、本題に入ったようなそんな感じだ。
アリア相手にまともに会話が成立したことなど記憶にないが、それでももう学校に通える年なのだ。少しは落ち着きを持って欲しい。

でも今回、それは関係ない。
アルスにとってはやはり妹のこと。あんなに思いつめたような表情で大好きなお菓子さえ手につけられなくなるなんて、心配だ。


「あー、うん。……が、学校のこと?」

「アリアが学校のことで悩むなんて……。御免、考えられない」

「……さっきから失礼よ、アルス。い、一応間違ってないもん」

「出来れば此処は一応じゃない答えが欲しいところなんだけど」

「えー……と、んっと」


目線を逸らしつつの曖昧な返答。
これは絶対に何かある、そう確信したアルスは少し……ほんの少しだけ強気でアリアに言葉を掛ける。
アルスより何倍も強気なアリアだったが、今回はやはり言い難そうに言葉を濁している。
逸らした目線も泳ぎだしたし、人差し指同士をちょいちょいと突き始めた。
心なしか、横に向いた頬もほんのりと赤みが差している。
そう、少女漫画でよく見る構図だ。


「って、それじゃあまるでアリアが誰かに恋してるみたいだよねー……」

「えええ!?」


弾かれたように此方を見る、顔を真っ赤に染め上げたアリアにアルスも驚愕の表情を浮かべる。
あの、アリアが。強気で勝気で活発でボーイッシュで、女の子らしさなどあまり持ち合わせていないあのアリアが。
しかも学校絡みだと言っていたということは、だ。候補は三人に絞られる訳だ。


「というか何よりも……本当に誰か好きな人、出来たの?」

「……う、ん」


小さく、本当によく見ないと気づかない程度にアリアが頷いた。此れほどまでに大人しい彼女は兄であるアルスでさえ見たことがなかった。
初めて、妹が女の子なんだなあと実感して彼は少し感動した。が、そんな場合でもない。

相手は誰なのだろうか。
やはりそこは気になるところだ。


「相手は……「お、おおおお教えない!」まだ言い終えてないのにー」

「だ、駄目なものは駄目! 絶対教えないんだからあああっ」

「あ、ちょっとアリアっ!」


アリアはそのまま、走り去ってしまった。
どうするんだろうか、なんてことは考えなかった。その内帰ってくるだろうということもあったが、彼には行き先の目星がついているのだ。

仕方ないなあ、と一つ溜息をついたアルスは、
開けっ放しの扉と、その向こう側から帰宅したのか不思議そうに此方を見る母親に曖昧な笑みを向けた後、
アイスの皿を二人分を持ってそれらをそっと流し台に置き、大きく背伸びした。





【君の一番大好きな人】
(この前までは僕だったんだからね!)
(でも取り敢えずアリアを泣かせたら一発やるってことで。僕からアリアを取るならそれくらいは許されるよ、きっと)
(あ、その前に相手を調べなきゃ、ね)


+ + +

活発で少し子供っぽい妹と彼女より数千倍大人なプチシスコンな兄を目指して書いた産物でしたー。
あ、これ「アルス+アリア→?」ですからね。決して兄妹愛ではないです。

ちなみに始めの大好きな君の〜はアルスです。言うまでもなく。
アリアの誰かに対する想いは『恋愛』で、アルスのアリアに対する想いは『家族愛』でしかないんだってことらしい←
よくある兄妹の話。ほら、将来はお兄ちゃんのお嫁さんになるー!みたいな。双子ですが。
アリアにとって本当に一番大好きな人が出来るまでは自分(兄)が妹の一番。だけど出来たら二番に、みたいな。
でもアルスは、彼にとっての大好きな人が出来るまではアリアが一番なままなので暫くは軽く邪魔してやろうとか企んでます。きっと(おま)
最終的には協力するつもりですけどねー。シスコン大好きだー!(…)

アリアの想い人はお好きな人を想像や妄想で思い浮かべちゃって下さい。ついでにアルスの今後もセットでどうですk(ry)

ではでは、アリアとチハアカは本当に書き易い乃島でした。


2009.09.05 音成 舞綾(転載日時)

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