その他短編

□綺麗なピンク色
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「ねえ、リーン」

「え、何?」


今日習ったばかりのケーキを作ろうと、少女アリアと少年リーンは多目的教室に居た。
実習内容は『チョコレートケーキ』。二人の大好物である。
先程やっと混ぜ合わせた生地を型に流し込んで、予め暖めておいたオーブンに入れたところだった。

洗い物も終わったのか暇そうに机に伏せたアリアが、ミトンを外して熱そうに両手を上下させるリーンへと言葉を投げかける。
改めてみると、彼のエプロン姿は結構見慣れないものだな、なんてアリアは思った。


「あのね、お母さんが言ってたんだけど……」

「うん」

「女の子ってお洒落すると変わるって本当なのかなぁ?」

「……えっ」

「ほら、私ってダンジョン駆け回ってるイメージしかないでしょう? だから、ちょっと位は女の子らしいイメージも、持って貰いたいというか……」


アリアの隣に置いていた椅子に座ったリーンは少し悩んだ。
彼女は自分のことを『ダンジョンを駆け回っているイメージしかない』と言うが、彼にとっては違うからだ。
彼にとってのアリアは十分女の子だし、可愛いとも思う。
それが、行き成りあれだ。正直言ってしまえばアリアが変わってしまうのは少し複雑だった。


「そのままでも、良いんじゃないかな……?」

「……そう、かなぁ。だって、ロイやオルファスはもっと女の子らしく! なんて言うのよ」

「そ、そうなのっ?」

「うん。失礼しちゃうよねー」


失礼とか、そんなことは関係なかった。
それよりもリーンにとって、アリアが他の男子が言うことを気にするのが嫌だった。
好きな人には、自分のことだけ気にして欲しい。――子供でも大人でも、それが人間の欲だ。
それに、アリアが女の子らしくないと言っているような言動をするロイやオルファスも少し気にくわない。

と、そんな時。アリアが自身のズボンについているポケットへと手を滑らせて、その手に何か小瓶を握り締めた。


「何、それ?」

「これ? えへ、お母さんに貰った……えっと、ま……まに?」

「……マニキュアのこと?」

「そうそう、それっ」


『マニキュア』すら言えないアリアの右手がゆっくりと開かれた。
その中には、教室の蛍光灯が当たりきらきらと光る、透明な小瓶に入ったマニキュア。
小瓶の中身のマニキュアはラメ入りの半透明なピンク色をしていた。
丁度、アリアの髪色に近い色だ。


「綺麗でしょっ! 大事な時に使うんだぁ」

「そうなん、だ……」


マニキュアに釘付けだったリーンの視線が徐々に下の方へと滑り降りて行く。
アリアが何時の間にか変わってしまったように思えたのだ。
何時までも子供じゃないこと位は彼も理解している。
だけど、それが今だなんて言われても突然過ぎて頭がついて行かないだけだ。
行き成りその時が来ただなんて、自分が置いて行かれるみたいで焦るしかないから。


「大事な時に、大事な人にしか見せないの」

「え、だったら僕、今見ちゃったよ……?」

「リーンは良いの。だってリーンは、私の大事な人だから」

「ええっ!?」


反射的に顔を上げてしまう。
取り方によっては……寧ろアリアに好意を抱くリーンにとっては、少なくとも告白に思えてしまう。
そうじゃない、アリアはそういう性格だし。なんて自分に言い聞かせるものの、
心の何処かでそうであって欲しいと思う自分がいることにリーンは気づいていた。
そこまで鈍くは無いし、寧ろ自分の感情には結構敏感な方だった。


「……それ、期待するよ?」

「うん、良いよ」


あっさりと返された答えに、リーンは微苦笑を浮かべる。
リーンは適わないなぁ、と思いながら一度深呼吸をしてアリアを見据える。
そして、テンポの速い音を刻んでいく心臓をぎゅっと掴みながら勇気と声を振り絞って口を開けた。


「今度、二人で何処か行かない?」

「……勿論!」


きっと、その時のリーンの頬は真っ赤だったと思われる。
少し恥ずかしいとは思うけれど、でも。
アリアの顔も少しあのマニキュアのように桃色に染まっていたから、きっとお互い様。

チョコレートケーキが焼ける甘い匂いの中、小瓶に入れられたマニキュアが小さく光った。




【綺麗なピンク色】
(何処へ行こうかー……)(何処でも良いよ、リーンと一緒なら!)(ふふ、僕もだよ。じゃあ、散歩でもしようか)

+ + +

アリア総受け大好物な僕が通りますよー。(待てこら)
…すみません、言ってみたかっただけです(滝汗)

今回は「綺麗なピンク色」というテーマでリーン×アリアを書かせて頂きました。
個人的にアリア受けだと小説が書きやすいし、ネタも案外ふっと浮かんだので
「じゃあこの機会に」なんて思って投稿させて頂いております。お気に召された方が一人でも居れば幸いです!
というか、こういう話は女の子視点の方が多いような気もするんですけどねー…;
ロイたちに何か言われた件(くだり)とか、「リーンにも思われてたら、どうしよう」とか思って女の子らしくを目指した…とかいう設定なんです((


さて、此処までが転載です。
*この小説は、
>>[3598] ●みんなでぼくものリレー小説●
上記のスレッドに投稿した短編です。一部此方用に変更した部分もありますが本編の台詞等は変更しておりません。

今日はかなり更新した気がするのでこの辺で逃亡しようと思います←
でわわ!(あ、懐かしい/御前)


2009.09.05 音成 舞綾(転載日時)

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