宝物
□□上忍の課題
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「本気で来てよ!」
「はいはい」
意気込むサクラとは対称的に、やる気の無い返事をするカカシ。
ここは、深い深い森の中。
言いだしっぺはサクラの方だった。
日に日に成長するサスケとナルトの存在に焦りを感じたサクラは、カカシに個人演習を頼んだのだ。
もちろん、2人には内緒で。
「しかし今更体術なんかしなくても…」
「まず苦手を克服するのが私のポリシーよ!」
さいですか、と独り言のように呟くカカシ。
「まあ、断る理由は無いしね」
パタン、と愛読書を閉じる。
やる気の証拠だ。
サクラは身を引き締める。
「泣いても知らないよ」
「泣かないわよ!」
「そ、じゃあいつでもおいで」
ポケットに手を入れたまま、ちょいちょいと指で催促する。
こうなると下手な小細工は通用しないだろう。
「いざ、正々堂々と勝負!」
サクラは力強く地面を足で蹴り、真正面から突進したいった。
左足を軸に身体ごと半回転し、その勢いに乗せて右足を繰り出す。
パシッ
全力をかけた筈なのに、いとも簡単に止められる。しかも片手で。
「くっ」
.
「ちゃんと脚曲げて打たないと折れちゃうよ。サクラは細いんだから」
ひょいと足を掴んで放り投げる。
「きゃあっ!」
ズザザッ
「相手の力を利用して投げると最低限の力で済む。よく覚えておきなさい」
「ま、まだまだ!」
今度は身長差を利用してカカシの懐に飛び込み、カカシの胴体目掛けて拳を振り上げた。
パンッ
「もう少し距離を縮めた方が良いね。でも余り近付き過ぎると相手に捕まる危険があるから。間合いを上手く計るのも忍の基本だよ」
また腕を掴んで投げ飛ばされる。
.
ドタッ
「痛っ!」
「ほら、ちゃんと受け身取らないと」
「わかってるわよ!」
やはり真正面からは無理か。
サクラはポーチから白い玉を取出し、地面に投げつけた。
ボワンッ
辺りにもうもうと立ち込める白煙。
サクラはうっすら見えるカカシの影を捕えながら、素早く後ろに周り込んだ。
後ろから奇襲をかければ、一撃くらいは当たるだろう。
クナイを右手に持ち、音を立てずに走り寄る。
「たあっ」
一直線に利き手をカカシに振り下げた。
バンッという手応え。
(やった?)
だが次の瞬間。
ボンッ
カカシは煙になって消えた。
「え!?」
キョロキョロと辺りを見回すが姿は見えない。
「煙玉は自分の姿を消すと同時に相手も見えなくなる。まだ気配で敵を探せないうちは多様しない方が無難だね」
突然目の前に現れたカカシに悲鳴を上げそうになった。
「カカシ先生!じゃあさっきのあれは…?」
「影分身はナルトの専門じゃないよ」
飄々と佇むカカシ。
「後狙うなら確実に急所を打たないと。サクラは体力が無いから、持久戦に持ち込まれると辛いでしょ」
.
目の前で暢気に蘊蓄を並べる。
サクラはぎりっと歯を食いしばった。
カカシは先程から右手をポケットに仕舞ったままだ。
片手の、しかも利き手じゃない方で相手されているのに一撃も当たらない。
上忍と下忍。
大人と子供。
男と女。
差があるのは頭でわかっていたけれど。
(この差はないでしょう!?)
あまりに非力な自分に腹がたった。
「だから泣いても知らないって言ったじゃない」
「泣いてないってば!」
慌ててごしごしと顔を擦る。
「そう?」
カカシは少し考えて。
.
「じゃあ、サクラにもっとやる気を出して貰うかな」
「え?それってどういう…」
突然口を塞がれた。
驚いて後ろを見ると、カカシが目を細めて開いた手でサクラの頭を撫でている。
(こっちも影分身!?)
カカシは何か簡単な印を組んでトンとサクラの額を突く。
反撃する暇も無く、サクラの意識は薄れていった。