宝物
□□森の花嫁[ドウワパロ/カカサク]
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あるお百姓に、三人のむすこがおりました。
むすこたちが成長して、いい若者になったある日、百姓は三人に向かって、こういいました。
「おまえたちも、もうそろそろ嫁をもらう歳になった。明日、めいめい嫁さがしに出かけるがいい」
「嫁さがしと言ったって、どこにいけばいいんですか?」
いちばん上の息子がききました。
「それは、ちゃんと考えてある」
父親は言いました。
「明日の朝、めいめい木を切り倒すがいい。木が倒れた方向に向かえば、おまえたちに似合いの娘が見つかるはずだ」
そこで、次の朝、三人は木を切りました。
いちばん上の息子の木は、北に倒れました。
「こいつは結構!」
いちばん上の息子は、諸手をあげて喜びました。というのは、北のある農場に、とても綺麗な娘がいると知っていたからです。
二ばんめの息子の木は、南をさしました。
「こいつはいいや!」
二ばんめの息子は口笛を吹きました。というのは、南にある農場に、よくダンスをした娘がいたからです。
いちばんの末息子―…その名前はカカシといいましたが、カカシの木は、なんと森のほうへまっすぐ倒れてしまいました。
「ハ、ハ、ハ!」
上の二人は腹を抱えて笑いました。
「カカシ、おまえは、さしずめ狼の娘か、狐の娘にでも、嫁になってもらうがいい」
「馬鹿いうな。おれは貧乏くじを引いてはいないつもりだね。喜んで森へ行ってやろうじゃないか」
せいぜい頑張れよ、と二人の兄さんたちは、意気揚々と出かけていき、それぞれ自分の意中の娘に結婚の申しこみをしました。
カカシも、意気込んで出発しましたが、森の中を進んでいくうちに、だんだん心細くなってきました。
「人っ子ひとりいないのに、花嫁なんて見つかるはずが…」
すると、目の前に一軒の小屋が見えました。
戸を押しあけて入ってみると、中には誰もいません。
いいえ、いることはいました。小さなネズミが一匹、上品なようすで身繕いをしていました。
「やっぱり、誰もいないか…」
カカシは、肩を落として、帰ろうときびすを返しました。
「待って!」
うしろから声がして、カカシは振り返ります。しかし、いるのは、一匹のネズミだけ。
「今の、おまえ?」
桃色のネズミは、可愛らしい鼻を得意げにつんとさせて
「むろんよ」
と言いました。
カカシは、このネズミにたいへん興味を示しました。
「あなた、なぜ森に来たの?」
カカシは、ネズミに問われるままに、木のことや、兄さんのことなどをすっかり話しました。
「兄貴たちは、わけなく花嫁を見つけるだろうよ」
カカシは、不機嫌そうに言いました。
「だけど、おれはこんな森で、どうしようもない」
「あら、あなた、こうしたら?私をお嫁さんにするの」
カカシは、思わず吹き出しました。
「おまえはただのネズミじゃないか。ネズミを嫁にしたなんて、聞いたことがないね」
けれども、ネズミは、真剣な顔つきで、首をふって言いました。
「あなた…カカシといったわね。これはね、まじめな話よ。世の中のいろんな不幸にくらべたら、ネズミを花嫁にすることぐらい、なんでもないわ。そりゃ、私はただのネズミかもしれないけど、でも、あなたに忠実な、いい奥さんになるわ」
そういうと、ネズミは小さな前足の上にあごをのせ、緑の瞳をキラキラと輝かせてカカシをじっと見上げました。そのようすは、いかにも上品で愛らしく、見ているうちにカカシは、このネズミが好きになってきました。