宝物
□■花言葉[カカサクハヤシリアス]
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あのひとが、行ってしまって月が2つ流れ
未だ私は 思い出す度愛しく目をほそめる。
たくさんの涙と共に
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世は戦争に狂って。
毎日誰が、啜り泣くのだろう。
哀しい唄も歌えない。
「桜、桜。泣くのはお止しよ。お国の為に亡くなったのなら、誇るべきさ。」
まだ余り戦争の被害がない小さな村の家で、細い肩を震わせる少女が居た。
「今は、女も強くなくては。そんなのでどうするの桜。」
「猪…あなたには分からない…あんなに長年お慕いした方が…特攻隊に…。」
私には割り切れない、と畳に雫を落とす。
「桜、あの人はお国を勝利に導く神風になったのよ」
「お国…?私の…私だけの風でいて欲しかった…疾風さん…ッ…」
夕暮れに、少女たちの影が家の奥まで伸びる
名通りの桜色の髪を、金柑色に染め上げ
また 彼の名を思わせる惑星が まわる。
いっそ、警報が地を這って鳴り響き 貴方の元へ連れていって欲しい。
桜と疾風はとなりの村同士。
疾風が家業で、荷物を運んでいる時に桜が加勢したことから仲睦まじい関係となった。
歳は若干、離れていたが、そんなことは二人共に気にしなかった。
夜、忍んで会う
ことも度々あった。
なにをする訳でもなく唯、お互いに寄り添い語らうだけだった。
桜は目立つ髪を布で隠し、うすい月光りに照らされる彼の顔を横目でうっとりと見る。
「どうか、しましたか?」
視線に気付かれ、桜はぱっと頬を赤くした。
「いえ…」
赤くした顔を見られまいと布を更に深く被る
疾風は軽く首を傾け、微笑んだ。
そして、すいと何かを指差す。
「…?」
「月見草です」
夜から、憂いを含んだ黄色い花弁をひらく花
樹の下に、申し訳無さそうに咲いていた。
「あれ…月見草って、いうんですか?」
疾風は頷き、言葉をつづけた。
「花言葉は、自由な心です。」
桜は話の意図を掴めないまま、素敵ですね。と笑った。