◆novel→FF2

□運命
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「ふふっ」

そう柔らかく笑む彼が好きだった。
両親を早くになくし、兄と慕った人とはぐれ。妹のような少女と幼なじみを守らなければ…、知らずに沸き起こった使命感が重圧となってのしかかっていた。
そんな中、優しく、時に厳しく導いてくれた白魔道士が、フリオニールにとってかけがえのない存在となるのに長い時間はかからなかった。



『私には君の運命が見える。それは私の運命にも関わっている…』

出会ったばかりの頃、彼は言った。
「運命……」
「どうした?」
宿屋の窓から星を眺めていたフリオニールがぽつりと呟いた言葉が聞こえたのか、ミンウは手にしていた本を閉じた。刹那、本が闇にとける。
「黒魔法も、面白いものだ」
どこか好戦的な表情になった魔道士に、フリオニールは小さな溜め息をもらす。
「ミンウはすごいな。白魔法以外も使いこなすし、格闘させても強いなんて反則だ」
「ふふっ…。何のことはない。私は人の弱点をついているだけだから、更なる上手が相手では太刀打ちは出来ないだろう」
それは謙遜だ。
ローブから時折見え隠れする腕も、惜しみなくさらされた腹部も、鍛えた者のそれである。
確かに魔法に関しては天才と呼ぶに相応しい。しかしそれ以外の精神力や身体能力はたゆまぬ努力の結晶なのだろう。
だからこそ、彼には余裕がある。
そしてその余裕は、必死に運命を切り開かんと前に進むフリオニールが時折迷走し立ち止まっても、それを支えるだけの力を持っていた。
「ミンウ。貴方がいて良かった。貴方がいなかったら俺は…」
「おや、今夜のお前は随分と」
甘えん坊だ……。
そう囁く声こそが、甘い。
流されて腕を伸ばしかけるが、すんででぐっとこらえて、星明かりの中で煌めく青い瞳をじっと見つめた。
「運命…。今も見えているのか?」
不意打ちだったのだろう。ミンウの表情が僅かに歪む。
「そう……だな。私には、見える。お前が、運命を切り開くのが」
何故だか、ミンウが泣きそうな顔に見えて、一度は引っ込めた手でその目元をぬぐう。
フリオニールの指が濡れることはなかった。
「お前ももう、やすみなさい。明日も強行軍だ」
「あぁ、わかった」

でも、泣いているように見えたんだ…ー。



 
そう、私には見えている。
私の運命にも大きくかかわる、フリオニール、お前の運命が…ー。
そして、お前が為すべきことを果たす時に、私がその隣にいる事はない。
それも、わかっている。

ならば、
「私は、礎となるだけだ」

白魔道士のしなやかな手指が、眠りについたばかりのフリオニールの髪を撫でた。



予感はあった。
「礎」
夢うつつでその言葉を聞いた瞬間から。
彼が新たな任務についたと聞かされた時に、予感は確信に変わった。



ミシディアの塔。

「運命なんて、俺が、新しい道を、切り開いてみせる、から……!」
「何を泣いているんだ?さぁ、扉は開いている…。新しい道へ、行くんだ…」
勢いよく首を振るフリオニールの動きに合わせて、抱きかかえられたミンウの上半身も揺れた。
扉の封印をとくため、魔力の足りない分を生命力で補って魔法をぶつけた。
その反動で、指先から僅かに残った生命力さえとめどなく流れていく。


私には見えていた。
これが私の運命の終着点。
「ミンウ…、嫌だ……!」
「本当に…フリオニール、お前は……」
甘えん坊だ……



最後の息は、フリオニールの唇で吸い取られた。
こんな運命ならば、悪くない。



 
柔らかく、優しく笑う彼が好きだった。




fin.
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