◆novel→DFF

□DISSIDIA 〜OP.2-4「君に会いたかった」
1ページ/3ページ

ただ、君に会いたかった。
それだけを考えてここまで来た。
絶望を味わい、血を吐くような思いをして、その後には、偽りのないたった一つの願いが残った。
ただ、ただ、君に会いたかった。


ただ、君に会いたかった。
望まぬ召喚を受け、混沌に支配された己を呪い、それでもただ一つの想いは偽りなく心に在った。
君に会いたい。
でも、今は…、君に会うのが怖い。




渓谷の月影に、数多の武器を携えた義士。
そして魔導船の傍らに、やわらかな光をまとう騎士。

「……セシル!」
温もりをわけあっていたルーネスの手をするりと抜きとり、何を考えるひまもなく駆け出した。
「お、おい!フリオニール!?」
後方で誰かの声がする。
「あれ!?ちょっと…人数足りてないぞ!」
さらに、誰かの慌てたような声が聞こえた気がしたが、フリオニールの耳には入らなかった。

「セシル!セシル!セシル……!」
セシルがいる。すぐそこに、セシルがいる。
それが何を意味するかも考えずに、フリオニールはひたすらに駆けていた。
「フリオ…ニール…?」
隊列から一人離れ、こちらに駆けてくる青年がある。
ダメだ、仲間から離れては危ない、と冷静に考える余裕があるのが不思議。
ふと目を落とすと、小さく震える己の指先が目に入った。
……怖い。
きびすを返したセシルを、しかしフリオニールの声がその場にピタリと縫い止める。
「行くな!……行かないでくれ!」
震えが止まらなかった。
会いたい、会えない、会いたい、会うのが怖い、相反する感情が己の中でせめぎ合い、一切の思考を奪う。
「セシル…!」
幾度も吐き出される悲痛な声音にわずかに振り向けば、見えない壁に阻まれたフリオニールが表情を歪めながら立ち尽くしているのが見えた。その拳は流れる血で赤く染まっている。
「セシル…!たのむ、そばに行かせてくれ!」
この寄せ集めの世界はカオスの軍勢に都合の良いように出来ている。召喚をうけてまずはじめに感じたことだった。
セシルがめぐらせた心の壁が、フリオニールの侵入を阻む。しかし、揺れる心情を写し取ったように、不可視の壁は小刻みに振動し、その位置も常に変化しているようだった。
「フリオニール、ダメだ。戻って……」
「何を言う!やっと見つけたんだ!離れてたまるものか!」
また、二人の距離がぐっと近付いた。
壁に何度も叩き付けられるフリオニールの手。
その武骨な手が器用に武器を操る姿を懐かしく思い描いた瞬間、二人の間にあった障壁は嘘のように消え去り、

そして、

「……セシル!」

そして、息をするのが苦しいと感じられるほどに、強く強くかき抱かれる。


―――――――――――
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ