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□DISSIDIA 〜OP.2-2「正気と狂気の狭間で」
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セシルは魔導船と呼ばれる船にいた。

「便利なものだ。あの時はどんなに願っても辿り着けなかったのに、今はこんなにも容易く入ることができる」
この世界は、どうやら混沌の勢力に都合よく出来ているらしい。
もっとも動力は死んでいるようで、青き星に進路をとることも回復装置に身を横たえることも出来なかったが、それでも陣地として使用できる場所としては充分だった。
それに、ここから少し歩けば月の民の館がある。
そこならば更に設備は充実しているはずだった。
「兄さんも…以前ここに来たのかな…」
兄の痕跡を探すが、ここは寄せ集めの世界。いつの月を映したものか知れない。兄が存在した月ではないのかもしれないと、早々に諦める。
懐かしいのにどこか空虚な魔導船を出て、一歩踏み出すとかすかな違和感ののちに視界が紫に支配された。

「パンデモニウムか……」
禍々しい赤黒い床を一瞥する。足を踏み入れた途端、床から鋭いトゲが突き出してきた。
攻撃を予想していたとはいえ、パンデモニウムに転送されたのを察知した瞬間に顕現していた空色の髪の少女を庇った隙が災いし、腕に小さな傷をおう。
「マイナス、無事か?」
「馬鹿な男だ。私など捨て置けば良いものを」
そうはいかないと笑んで見せて、瞬きののちにその表情を険を含んだものに改めた。
「用があるのならそちらから出向けば良いだろうに」
無礼な、と吐き捨てる先には、煌びやかな鎧の皇帝。
「どこへ向かおうとしていた?」
セシルの言を無視して不躾な質問を投げてくる。
「フリオニールのもとか?……行かせぬ」
皇帝がすっと片手をあげるのと、セシルが警戒して歪な形状の剣を構えるとのがほぼ同時。マイナスはその一呼吸分早く姿を消している。
皇帝の動きに神経をはらっていたセシルは、背後から現れた人影への対処が遅れた。
肩を掴まれ地に引き倒されたセシルの目に入ったのは、クリスタルで造られたような、動く人形。
「イミテーション…。悪趣味な軍勢をまた造ったのか…。すまないが人形遊びに付き合っているほど暇ではない!」
容赦なく攻撃を加えようとしたセシルの視界の端で、シャラリ…何かが揺れた。
見覚えのある髪飾り。
記憶とは違う単色のそれが、しかしガツンと心を打つようだ。
「フリオニール…!?」
イミテーションに表情はない。しかし、その懐かしい面影はセシルの抵抗を奪うには充分だった。
「行かせぬ」
皇帝が、同じ言葉を繰り返す。
フリオニールのイミテーションに縫い止められながら、セシルは暴君に憐れみの目を向けた。
「皇帝、何を恐れている…?私は年をとった。私が彼の腕の中にいたのは、もう10年以上前のこと。セシル・ハーヴィにとって、彼の存在は最早美しい思い出にすぎないというのに……」
そう。何もなかったかのように彼の腕におさまるには、もはや時が流れすぎていた。
それに、
「フリオニールは真っ直ぐな男。混沌に落ちた私を、許しはしないだろう」
「それでも、行かせぬ」
皇帝の舌が、凝固しかけていたセシルの腕の血を舐めあげる。
「……ッ!」
不快感に身を捩ると、無表情なイミテーションの視線とぶつかった。

フリオニールに、見られている。

「……ぁ」
セシルの抵抗が再びやんだ。
普段は鎧に覆われた白い肌が、外気にさらされ粟立つ。
無遠慮に肌を這う熱い指先が、不快。
「やめ…。は……、ぁ…」

駄目だ。
フリオニールが見ている。

ゾクリ、ふいに不快感とは違う震えが全身に走る。
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