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□DISSIDIA 〜OP.2
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武器の手入れをしていたフリオニールは僅かな違和感に眉をよせた。
次の瞬間、ぐにゃりと視界が歪む。
覚えのある感覚だった。
どこからか自分を呼ぶ声が聴こえる。
優しい、女性の声だ。
かすかに頭をもたげた恐怖に、思わず傍らにあった男の腕を掴んだ。
「ガイ……ッ!!」
刹那の後、本格的な歪みに襲われる。
そこにあったのは、小さな諦めと、徐々に大きさを増す使命感。さらに、ある種の期待。
「ガイ…。行ってくる」
幼なじみと目があった。
視界の端で相手が頷くのをとらえた瞬間、すべてが暗転した。



―――――――――――



次にフリオニールが目をあけた時、そこには予想と違わぬ風景があった。
光に包まれた秩序の聖域。
「神々の闘争は、終わっていなかったんだな。コスモス……」
高みからフリオニールを見下ろす高貴な女性は、感情のこもらぬ声で告げた。
「たとえ仮初めの死ではない真の死をコスモスがむかえたところで、新たな別のコスモスがうまれるだけです。大いなる意思の望むままに」



 


「フリオニール!!」
まっすぐに見据えた未来から一時も目をそらすことはないのであろう、強さをたたえた声。
天をむいた長い角をあしらった兜に青い甲冑、現状で、誰よりも頼りになる男の姿がそこにあった。
「ウォーリア・オブ・ライト。やはりあなたも喚ばれてきていたか」
「そのようだ。前回の召喚のことをふまえると、おそらく君が最後だろう。あちらにあと8人いる。見知った顔も幾人かある」
来てくれと誘われ、懐かしい背中を追った。
一年ほど前、その強さに憧れがむしゃらに追いかけた背中。いつか追いつきたいと願い、フリオニールの世界に戻った後もそれは目標のひとつとなっていた。
再びまみえることが出来るとは。フリオニールは高ぶる気持ちをおさえるように、拳を握りしめた。


「よう!やっぱりお前がきたか、フリオニール!」
コスモスの聖域に立ち込める神聖な雰囲気にそぐわない、底抜けに明るい声が響いた。
「バッツ!」
ヒラヒラと手を振る姿は、記憶の中の旅人と寸分違わず一致するようだ。
旅人のまわりには、こちらも変わった印象をうけない獅子の姿。軽く会釈をよこした彼のそばには記憶より幾分背丈をのばした人影がふたつ。
「ジタンとティーダは少し、大人びたか?」
それぞれ、自分たちの世界に戻ってから経過した月日が違うのだとわかる。
ゆっくりと歩み寄ってきたクラウドもまた、さらなる落ち着きを目元にたたえていた。
知った顔はそれで終わり。
フリオニールの脳裏で鎌首をもたげた疑問符が、徐々に大きさを増していく。

彼が、いない。

「君がフリオニールか。ティナから話は聞いてるよ」
フリオニールに声をかけたのはパサついた銀の髪を色とりどりのバンダナで覆った青年。
若々しくも、年かさにも見える不思議な印象だった。
「俺はロック。ティナじゃなく俺が喚ばれたのは、たぶん俺たちの世界で魔導の力が無くなっちまったからだと思う。まぁうちの女性陣は魔導の力なんかなくてもめちゃめちゃ強いんだけどな」
斬鉄剣を振り回すティナの様子を面白おかしく語る青年は自然体で、すでに秩序の輪の中にとけこんでいるように見える。
「次オレね!オレはルーネス!みんなの話聞いてると、前にここにいたオニオンナイトはオレたちの世界で伝説のナイトって言われてる人のことみたいだ」
こちらはつややかな銀髪の少年である。
美しい顔立ちをしていたが、豊かな表情と子供っぽい仕草が彼に愛嬌をあたえていた。
そして、
「バロンの聖竜騎士、カインだ」
やはり…。フリオニールは知らぬうちに唇をかみしめる。
30をいくつか過ぎたと想われる騎士の白銀の鎧は、フリオニールの記憶の中のそれとどこか重なる。
そして携えた槍の意匠が、ふわりと柔らかく微笑む聖騎士が手にしていたそれと全く同じだった。
コスモスの召喚をうけた際に使命感とともに胸に沸き起こった期待が、音をたてて崩れ去っていく。

また、会えるのではないかと思っていた。
また、自分の腕の中で、優しい笑顔を見せてくれるのではないかと、思っていたのだ。

「よろしくな、皆。俺はフリオニールだ」
フリオニールが差し出した手を、銀色の聖騎士ではなく金の髪の竜騎士が握る。


セシル、どうして…――


―――――――――――
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