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□傷痕
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なんとなく、この美しい騎士は傷などひとつもなく、白くなめらかな躰を持っているのだと、思いこんでいた。


着衣をといた背に、肩に、無惨な傷痕がある。見れば左右に等しくついているのが不思議。
吸い寄せられるように、そのうちのひとつにフリオニールは手をのばした。
「……ッ!」
息を呑みびくりと肩を震わすセシルに、すまないと慌てて詫び、頭をさげる。
「ふふ…、醜いだろう?」
目を伏せ自重ぎみに笑うセシルが痛々しい。
「セシル、これは……。聞いても構わないか?」
陶器のような白くなめらかな肌に刻まれた傷痕は嫌でも目をひく。どうしてもそこから視線をはずすことが出来なかった。
「僕は暗黒騎士だった。ダークナイト、魔剣士、似たような戦い方をする者は他国にもいたようだけど、バロンの暗黒騎士は陛下への忠誠と戦いに生きることへの覚悟として、その身に直接鎧を打ち付けるんだ。」
これはその跡なのだと、何でもないことのようにセシルは言う。
その想像を絶する苦しみを思い、フリオニールは眉をよせた。
「そんな顔をしないで。確かに暗黒騎士である自分を嘆いたこともあったけれど、この世界では僕の過去が少し役にたてているようだから……」
遠くを見つめるセシルにつられるように、フリオニールもどこへともなく視線をやった。


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セシルがこの不可思議な世界に喚ばれた時、まず驚いたのは己の姿だった。
久しぶりに身につけた黒い鎧。忘れかけていた肌を貫く痛みに思わず膝をついた。
周囲の者も、闇を纏う己を警戒しているのがわかる。

何故…ー。

脂汗がうかび、兜の中をいくつもの筋となって流れ落ちる。
心に幾度も浮かぶ疑問の言葉を口にのぼらせるだけの余裕がない。決別した筈の闇の力に再び支配されているのは何故か。
周囲の視線が痛い。害をなす者ではないと弁明しようにも、口を開けば漏れるのは荒い息ばかり。
汗が目に入ったのか霞む視界の端で、誰かが飛び出してくるのが見えた。
「大丈夫か!?」
力強い腕に抱きかかえられる。
ガシャリ、耳障りな大きな音は己の鎧と相手の武器がぶつかった音だろうか。
相手の温もりに励まされるように、唇がやっと意味を為す言葉を紡ぐ。
「……ありがとう」
相手が息を呑む気配。
暗黒の鎧を纏うには迫力が足りないと、親代わりだった飛空艇技師によく笑われた柔らかい声音のせいだろうか。徐々に周囲の緊張がとかれるのを感じた。
「僕はセシル。君は?」
名乗ると、相手がほっと息をつき笑みを浮かべる。
鍛え上げた体つき。精悍な顔立ちの男だが、笑むと途端に人懐っこい雰囲気になった。
「俺はフリオニールという。よろしくな、セシ…」

刹那。

背後からの強烈な気配にその場にいた全員が息をのんだ。
徐々に近付いてくる、ゆったりとした歩みに合わせてカチャリと金属がぶつかる音。
そして、圧倒的な光…ー。

やがて姿を現したその神々しい勇者の姿を目の当たりにした時、セシルは己が再び闇の力を手にした理由を悟った。

この光の前では、自分の脆弱な聖なる光など全く意味をなさない、と。


記憶が無いのだという光の戦士だったが、汚れ無き光を纏う彼の指示に、誰ひとり逆らうことなく従った。
いくつかの組に別れ世界を探索し、やがて秩序の女神が顕現したことで、10人のクリスタルを求める旅がはじまる…ー。


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