◆novel→DFF

□jealousy
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「そのエモノ、ちょっと見せてくれないか?」

期待に弾んだ声音。見れば、フリオニールのキラリと輝く眼差しが、己の持つ武器にそそがれている。
歪、と表現してもおかしくはない変わった形状に興味がわいたのだろう。相手を傷つけないよう慎重に刃を預ければ、
「面白いな。槍…、いや、剣なのか?」
面白い、面白いとしきりに繰り返し、様々な角度に剣をかざすフリオニールである。子供のようにはしゃぐ君こそ面白いと、セシルは声をあげて笑った。
「笑うなよ。これでも見境なくて恥ずかしいと自覚してるんだから」
頬を赤らめて抗議の眼差しをセシルにむけてくるが、すぐさまその視線は手元に落ちてしまう。やがて、数多の武器を器用にあやつる骨ばった指が緋色の剣先をなではじめた。大胆な手つきに少々ひやりとさせられて、
「怪我をしないよう気をつけて。僕自身もまだこの武器に慣れていないんだ」
なかなか言うことをきかないじゃじゃ馬だから、と慌てて忠告をする。
「どういうことだ?使い慣れた武器を持ってこられなかったのか?」
首をかしげるフリオニールに、このような槍に近い剣は実はこの世界に来てはじめて手にしたのだと白状する。
「似たような槍を、友が使っていたけれど…」
兜で隠されることが多かった怜悧な眼差しと、日に溶けるような淡い金髪を脳裏に描いて、それほど長く離れているわけではない親友をどこか懐かしく思う。
友、とセシルの説明の一部分を、フリオニールの普段より少しかたい声音が拾った。
「槍…、竜騎士か…」
竜騎士が得意とする武器は槍。
かつて、実際に竜とよばれる気高い獣の背に乗り空を駆けたといわれている竜騎士である。上空からの攻撃には、間合いの長い槍が好まれていた。竜が姿を消した現在でも、その習慣は騎士たちの間に深く根付いている。
セシルの世界ではごく当たり前の連想。
フリオニールの世界でも、竜騎士は槍を好んで使っているらしいと、お互いの世界の些細な共通点をみつけて、セシルの心が弾む。もしかしたら、セシルの世界にはいない人に慣れた竜も存在しているのかもしれない。
もっといろいろな話をせがもうと口を開きかけたが、フリオニールのどこか苛立たしげに唇を噛んだ横顔に息をのんだ。
「フリオニール?」
顔を覗き込みながら何度か呼びかけると、
「あ……、あぁ、すまない。なんでも、ない」
視界の端を揺れる銀色の帳を無意識に目で追い、それが至近距離にあるセシルの絹糸のような髪だと気付いたのであろう。フリオニールは我に返ると同時に、どこか狼狽した表情をうかべた。

この不器用な青年を、好ましく思う。フリオニールが向けてくれている好意を有り難いと思う。
だが、セシルは己の中に芽生えたあたたかい気持ちは、そのまま自らの星へ持ち帰るつもりでいた。
立場がある。待つ人がいる。
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