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□月の明り、野に咲く花
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ここは断片が不可思議に繋ぎ合わさった世界。
付近のイミテーションを一掃し、仲間をまとめるウォーリア・オブ・ライトが今宵の野営の地を決めた時には傾いていた青き星が、今は頭上にある。
寝ずの番を買って出たフリオニールは、背後の天幕で空気が動くのを感じ武器のひとつをみがいていた手を止めた。
ほどなくして現れた人影に、眠れないのか、と声をかける。
「……セシル」
ふわりとした柔らかい風をまとったような佇まいは、夜半をすぎた今も乱れてはいない。ただ他者を拒絶する鎧を取り去っているだけ、どことなく無防備で危うげな気配をまとっている。
「騒がせてすまない。隣、いいかな?」
小首を傾げながら問うセシルに、あぁ、と頷いて辺りに散らかしていた武器を脇へどけた。
「ここで野営をすると、どうしても心が騒いで…」
せめてあの船に行ければ良いのに、と小さく呟くセシルの目線の先には鈍く光る石の建造物と、その傍らに泰然と腰をおろす異様な船がある。そちらに差し伸べた指先は、見えない壁のようなものに阻まれていた。
「魔導船に行ければ回復設備がある。みんなもっと楽になるのに」
しかし、壁が邪魔をする。壁を抜けた場合でも、渓谷の別の場所に飛ばされるか、もしくは別の世界の断片へ足を踏み入れることになるか。
設備の整った船へと至る道は、未だ見つけられてはいなかった。
「ここはセシルの故郷だったな」
唇を噛むセシルの気をそらすため話題を変えようとしたが、出てきたのはこんな言葉で、フリオニールは小さく舌を打った。
常に薄暗く、いくつもの岩場や石柱が列をなしている渓谷。遠くには青く光る星。
広く、身を隠せるところの多いここで戦士たちは休息をとることが多かった。しかし、ここで野営をはる時にセシルは充分に休めていない。明日の夜は別の場所に天幕をはるようウォーリア・オブ・ライトに進言しなければと固く心に誓うフリオニールに、セシルはほんの少しだけ疲れを滲ませた表情で笑んで見せた。
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