菓子本

□幸せの黒い犬
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「シリウス…もうすぐ満月だね…」

リーマスがシリウスの目を見た。

「そうだっけか…?」

シリウスはとぼけた。

「満月だよ…。また僕が僕でいられなくなる…」

リーマスはシリウスに聞こえるようにつぶやいた。どこか疲れたような、諦めたような響きだった。

シリウスはそれには答えず、乱暴にカーテンを引くと、リーマスの腰を片腕で引き寄せた。

リーマスは悲しげに微笑んだ。

ーキミはいつまで僕を愛してくれるんだろう…。



「あなた、ちゃんと食事を摂っていますか?」

校医のポンフリーが気遣わしげにリーマスの横顔をうかがった。
リーマスは足早に、けれども疲れたように校医に連れ添われて叫びの屋敷へ向かっていた。

「…先生、体力が落ちれば、無駄なことをしなくて済みますか?」

思い詰めた表情のリーマスの言葉に、ポンフリーはリーマスの肩に手を添えた。

「大丈夫よ、リーマス。きっと近いうちに良い薬が開発されるでしょう。自分を責めてはいけません。きちんと食事を摂りなさい」

ポンフリーは目頭が熱くなるのをこらえながら強く言った。

「ありがとうございます…」

リーマスは機械的に答えた。その表情は虚ろで、どこも見ていないようだった。
リーマスは屋敷に通じる暗い道をそれよりも暗い気持ちで歩いた。

まるで死刑囚のようだと思った。それならまだいい。まだ楽だ。
自分は死ぬことさえできず、考えもできず、ただのたうちまわるんだ。いっそあの爪で自分の喉を掻き切れればいいのに…。

シリウスや、ジェームズ、ピーター…。大切な友を失くすくらいなら。
大好きなシリウスに嫌われるくらいなら…。

リーマスは涙をこぼしながら、そして月光の中、自分を失った。
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