SHORT

□10年後の王子様
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「やぁ、さっきぶり。」

「やぁ、じゃないよ全くもう!」

「そういう所も変わらないね。」


クスッと笑う彼の声に、なんだかオモチャにされている気分になった。
彼も楽しそうにしている辺り、強ちそれは間違っていないだろう。

昔からそうだったな。

思い出してみれば、彼にいいオモチャにされてる節は沢山あった。
不二はSっ気が強く、手塚や菊丸、雪がその餌食になっていた。
雪はそんな関係がもどかしいと同時に心地よく、結局最後までその関係に甘んじていた。



「じゃあ、行こうか。」

「何処に行くの?」

「来ればわかるよ。」



昼間とは違い深い紺に包まれた街と、街灯にぼんやりと照らされた淡紅色の散りゆく花弁。
よく知っている街なのに、何処か知らないような、幻想的な世界。

通学路だったのに、昼間も寄り道したのに。
公園の桜は昼の顔と全く異なり、艶やかな雰囲気を醸し出していた。



横を歩いていた不二が急に足を止めた。


「どうしたの?」

「なんだか、こうしているとあの頃に戻った気分だ。」

「うん…そうだね。」


中学3年の春。
あの頃もこうして彼と桜を見た。

あの時はテニス部のレギュラーメンバーで練習終わりに寄り道をしたんだっけ。
真面目な国光に寄り道は…なんて言われながら。

あの時が、一番楽しかったなぁ。
雪が呟けば、
そうだね、と不二も同意をした。


また歩みを進め始めた不二についていく様に、彼女もまた一歩を踏み出した。



「さぁ、着いたよ。」

「えっ、ここって」

「へいらっしゃい!」


また、聞き覚えのある声。

いや、正しく言えば此処は何度も来たことがあるし、覚えていない訳がない。



「やぁ、久しぶり雪。」

「タカさん!」


そう、かわむらすし。
何度もお世話になった馴染みの店だ。
そして何より、同じテニス部だった河村の家だ。
高校から本格的に寿司の勉強を始めた河村は、今では父と肩を並べてカウンターに立つようになっていた。


「凄い久しぶりだね!」

「あはは、そうだね。でも変わらなくて安心したよ。」

「おーい不二!言い出しっぺの癖に遅いぞー!」



奥の座敷からも聴き慣れた声がする。



「えっ…英二?それに、貞治に秀一郎まで。」

「よっ!おひさー!」

「久しぶりだな。」

「久しぶり、変わり無いようで何よりだ。」

「わぁ…!みんな久しぶり!」

「せっかく雪が帰ってきたからね。急に集まってもらっちゃった。」

「わーわざわざごめんね…そんな遠くに住んでる訳でもないのに。」


しかし、そんな距離だが数年此方に帰らなかったのは事実な訳で。

そんな理由を作ってしまったことを、彼女は少し申し訳なく思った。



「いーから座って座って!」


雪は菊丸に腕を引かれて座敷に腰を下ろした。

それを確認したように、不二も雪の横にゆっくりと腰かけた。


「2人は何飲む?」

「んーどうしよっかな。とりあえず生でいいかな。」

「じゃあ僕も。」

「ハハッ、なんか不思議な感じだな。みんながビール飲むなんて。」

「たしかに、あの頃はコーラで乾杯だったもんね。」

「気づけばあっという間に成人しちゃったもんなー」

「そうだなぁ…手塚や越前はテニスのプロとして世界を渡り歩いてるし、不思議な感じだな。」

「国光とか会うのは中学卒業以来な気がするよー」

「確かにそうかもしれないな。電話やメールのやり取りはしていたが。」

「あ、後で写真送ってやろうぜ!」



そんな昔話に花を咲かせていると、河村が座敷まで人数分、ビールのジョッキを持って現れた。
そのパワーは今も健在か。
並々注がれたビールジョッキをいとも簡単に運んでいる。


「おい隆!乾杯くらい一緒にして来いよ!」

「えっ、いいの?」

「おうおう、父ちゃんの奢りさ!」

「ははは、奢りって…」


少し困り顔をしながらも、ジョッキを片手にこちらへやってきた。



「じゃあ、乾杯は雪にやってもらおうか?」

「えっ、私?!」

「よっ!雪ちゃん!」


一番楽しそうにしているタカさんのお父さん囃し立てられ、ジョッキを手にして立ち上がる。

こういうことは、いつも国光や秀一郎がやっていたから緊張する。


「で、では!私達の再会を祝して!」


“乾杯!”の声が店内に響き渡る。

そして、金色に輝く其れを、各々が喉を鳴らす様に口にした。

身体に染み渡る幸福感。



さぁ、ここからが楽しい同窓会の始まり。






10years


例えば、10年経って
街で偶然出会っても
君は変わらないだろうね。







 
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