BIRTHDAY

□HAPPY BIRTHDAY!!
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拝啓ーー

たったその一言だけで筆が詰まる。



間も無く誕生日を迎える彼、日吉若のプレゼントに手紙を添えようと芽衣は奮闘していた。

共に過ごす誕生日はもう何度目か。

プレゼントの品は選び終えたが、少し物足りなさを感じた彼女は手紙を贈ろうと考え、愛用するボールペンを手に取った。

しかし、“拝啓”たった2文字で手が止まってしまったのだ。


芽衣は思わず溜息を吐きそうになったが、お祝い事にそれはいけないと息を飲み込んだ。

薄桃色の便箋が、淡い初恋を思い出させる。

彼と出会い、彼を知り、彼に溺れた。

芽衣にとって日吉は、それ程魅力的な存在だった。



「芽衣?」


不意に声をかけられ、現実に引き戻されれば、目の前には意中の彼。


「わっ!」

「何ボーッとしてるんだ?何度も声をかけたぞ。」

「な、何でもないよ!おかえりなさい若。」

「ああ、ただいま。」


慌てて手元を隠すように片付けながら彼に声をかければ、彼も優しく返してくれる。


「あ、夕飯温めるね。ちょっと待ってて。」

「ああ…所で何していた。」

「何って…特に?」

「じゃあ床に落ちているこれは何だ?」


床に目を向ければ先程の薄桃の便箋。

一枚落ちてしまったようだ。


「えっとー…便箋?」

「手紙を書いていたのか?」

「そっ!そう!中学の友達に…」

「珍しいな。」


向こうから手紙が来てさー、なんてわかりやすい嘘をつきながらエプロンを纏いキッチンに急ぎ足で向かった。

それでも日吉は信じたのか、不思議そうな顔をしながら便箋を拾い上げた。


「手紙って久々だからなんて書いていいかわからないなぁってちょっと思っててさ。」


カウンターキッチンの向こう側から彼女は問いかけた。

拝啓、に続く言葉のヒントを彼から得ようとしたのだ。


「素直に書けばいいんじゃないのか?」

「素直?」

「ああ。普段言えない様な素直な気持ちを書けばいいんじゃないか?」

「そっか、素直な気持ちね。」

「例えば、こんな風にな。」

「えっ?」


カウンター越しに差し出された薄桃のそれには、彼のものだと直ぐに分かる几帳面で整った文字達。

そして芽衣はその内容に動揺した。


“バレバレだ”


そう大きめに書かれた文字の下に、小さく記された愛の言葉に、続けて彼女は頬を赤らめた。


“そんな所も愛してる”



手紙に綴る言葉を決めた瞬間であった。





拝啓
世界でいちばん愛してるキミへ



誕生日おめでとう
これからも毎年一緒にお祝い出来たらいいな
いつもありがとう
大好きだよ

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