ハツコイ。

□Act.9 幸あれ ―GOOD LUCK―
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アイツの笑顔は不思議だ。

時に俺を安心させ、時に不安にさせる。

…だが、嫌いじゃない。



藤咲の口から“跡部”の名前が出た時に、少しばかり胸がチクリと痛んだ。


こんなところまで、跡部さんに邪魔をされるのか?


いや、邪魔ではないのか。

事実、藤咲はあの人に助けられたと言っている。

ただ、こんなところでまで、俺はあの人を超えられないのかと思うと、不安や苛立ちを感じた。


いつだって頂点だ。

いつだってあの人がーー…


いつか奪い取ってやる。

その頂点を、あの人から。





そして、藤咲の事も、あの人の助けがないと何も出来ないという悲しい現状に憤りを感じた。


俺は…
アイツにとって必要な存在なのだろうか。


俺は…
藤咲に何か出来ているのだろうか。


何故、こんなにも藤咲の事を考えている俺がいるのだろうか。


その答えは、今は誰も知らない。


ただ、明日も藤咲の笑顔が見れたらいい。


それは紛れもなく俺の本心だった。







翌日。

部活には参加できないけれど、朝練に参加する部長へ肩の事を伝える為に早めに学校に向かった。

朝練を行う部活は多くなく、開始時間15分前に校門を潜ったが、何処か寂しげな静けさがあった。



「そうか…残念だけど仕方ないね。無理せずに治ったらまた来てくれればいいよ。見学も辛いでしょ?」


穂香「ありがとうございます。正直、見学も辛いので助かります。出来る限りの自主練は行いますので…」


「うん、頑張って。また一緒にコートに立てるのを待ってるよ。」


穂香「はい!本当にありがとうございます部長!」



部長に肩の怪我の事を話した。

どうしたの?とは聞かれたらけれど、あまり深くは聞かれなかった。

聞かないでくださいと顔に出ていたとは思うけど、部長が優しい人で助かった。

明らかに転んで出来る怪我でもないし、薄々気付いているのかも知れないけれど。

それでも優しく微笑んで、こんな私を待っていると言ってくれた。


一日も早く直して復帰しなくては。

夏の大会もそう遠い話ではないから…

折角レギュラーになれたのに、このまま先輩達を引退させたくはない。



穂香(考えても仕方ない…とりあえず治さなくちゃ。それに 、あともう一箇所行かなきゃいけない。)



私の足は真っ直ぐに目的地へ向かっていた。










 
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