*Short
□飛んでった麦わら帽子
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午前中は、移動時間と各自の部屋の確認だけで時間が過ぎてしまった。
そして、練習は午後からスタートした。
私は、球拾いをしたりだとか、飲み物を作って配ったりだとか、記録をつけたりとか、それなりにマネージャー業をしていた。
でも、夕ご飯を作るのも私の仕事だから、外での仕事もそこそこに、別荘内に戻ることにした。
今日の夕ご飯は、豚の生姜焼きに、サラダに…
私は、あまり料理が得意とは言えないけど、テニス部のマネージャーをしているおかげで、前よりは上達したと思う。
頑張っているみんなに、失礼にならないように、栄養にも気を付けて…
そんなことを考えながら、私は黙々と料理を作り始めた。
―――数時間後。
「できたっ!」
サラダにトマトを飾って、全部の料理が完成した。
時計を見ると、予定してた時間より少し早く終わった。
みんなの練習が丁度終わったころかな?
私は、片付けを手伝いに行くため、帽子をかぶって外にでた。
外は綺麗な夕焼けで、空が真っ赤に染まっていた。
夏だから日が長く、いつもならもう外は暗いはずなのに、まだ明るい。
テニスコートに着くと、もう片付けは終わっていて、みんなが丁度戻ってくるところだった。
「あ、なまえだ!」
私に真っ先に気付いたジローが私に手を振って駆け付けてきてくれた。
「夕食の準備終わったから、片付けの手伝いをしに行こうと思ってたんだけど、もう終わっちゃってるね。」
「まじまじ!?もう料理できてるの?」
「うん。今日は生姜焼きだよ。」
すると、ジローは笑顔で、「わーい、生姜焼きだー!」と走って別荘に向かっていった。
「まったく、あいつ、あんなに元気じゃねぇか。」
「俺たちは結構ヘトヘトだってのに。クソクソ、ジローのやつ!」
疲れた様子の宍戸と向日に、「お疲れ様」と一声かけて、私は跡部の元に向かった。
「跡部、お疲れ様。」
「あぁ。」
「とりあえず、夕食の準備ができたから、もう食べる?」
「そうだな。少し早いが、もうあいつら食べる気満々だしな。」
「了解。じゃ、準備してくる。」
「ちょっと待て。」
「ん?」
すると、突然跡部が後ろから抱きついてきた。
「わっ!跡部…!?」
「二人のときは名前で呼べっていったろ。」
そういわれて周りを見ると、確かに私たちしかいなかった。
樺地くんでさえいない。
「でも、料理の準備しにいかなきゃ…」
「少しだけいいだろ?今日はお前に触れてねぇんだから。」
いつもより甘えてくる景吾に胸がキュンと鳴った。
「嫌か?」
耳元で、そんなに甘く囁かれたら断れるわけないに決まってる。
「嫌じゃ、ない…」
すると、景吾はニヤリと笑って、私の首筋に軽くキスをおとした。
「っ……!」
すると、その瞬間、かぶっていた麦わら帽子が風で飛ばされて、コートの端の方まで飛んで行った。
「あ!」
私は拾いに行こうとしたけど、景吾が離してくれない。
「ちょっと、」
離してよ、と言おうとしたけど、景吾の唇に遮られた。
「!」
久しぶりのキスに、なんだかドキドキする。
こんなの、ずるい。
きっと私の顔は真っ赤だ。
私たちはゆっくり顔を離すと、景吾が
「拾いにいかなくていい。」
と言ってきた。
「だって、あれ、この前買ったばっかりのお気に入りなのに。」
「お前には悪いが、正直邪魔だった。」
「なんで?」
「帽子なんてない方がキスしやすいだろ。それに、お前の真っ赤な顔がよく見えるしな。」
「………。」
本当に景吾はずるい。
そんなこと言われたら、もう帽子なんてかぶれなくなる。
でも、私はまたキスしようとする景吾を押しとどめた。
「り、料理の準備しなきゃ。みんな待ってるし。」
そして私は無理やり景吾の腕の中から抜け出し、麦わら帽子を取りに向かった。
きっと、景吾は後ろで不満そうな顔をしていることだろう。
私だって、ほんとはあのまま流されたかったけど、みんなを待たせるわけにはいかないし。
私が麦わら帽子についた砂をはらいながらそんなことを考えていると、景吾がやっぱり不満そうな声で言ってきた。
「今日の夜は覚悟しとけよ。」
私は再び、麦わら帽子をテニスコートに落としてしまった。
Fin.