生徒会広報室
□始まり
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日本国。
都内某所。
高層ビルが立ち並び、最新技術を集めた世界有数の大都市。
そこにはおおよそ似つかわしくない、森があった。
細長く立ち並ぶ、無数のビル群を木々に見立てた、コンクリートの森という、揶揄ではなく、原生林に近いそれは、都会のオアシスなどという趣旨で造られた都市公園でもない。
正真正銘、読んで字の如く、森である。
都内にあって、その規模は大きめの市町村数個分、都の約4分の1。
地図にも存在感を存分にアピールする大きさである。
可笑しな所はもう一つ。
それは、一般人は完全に立ち入り禁止になっている事である。
一歩足を踏み入れた途端、セキュリティシステムが反応し、先に進む事が出来なくなってしまう。
毎年何人もの人々が、特に、「俺たちは無敵だぜぃ」的な、血気盛んな若者たちが挑んでは、情けなく帰っていく。
ある時は、ちょっとお金持ちの家に生まれた坊や、もとい悪ガキが誤って侵入。
即座に反応した警報に驚いた坊やは、勝手に転び、負傷。
たかがかすり傷に、怒り心頭のモンスター的、母親は警備会社に抗議。しかし、体よくあしらわれ。
ならばと、警察に被害届けを出すも、受理されず。
意地しか残っていない母親は、大問題にしてやらんとばかりに、テレビ局へ。
しかし、やはりここでも相手にされず有耶無耶に。
その後の母親は、すっかり大人しくなったとかいないとか…
そんなこんなで、一切表舞台に上がらない森。
瞬く間に、その存在は日本中に知れ渡り、噂が噂を呼び、様々な憶測が飛び交った。
近代化の進む都市内にあって、不変の巨大な森に、日本国民ならば一度は抱いたであろう疑問、この森はいったい何なのか。
恐らく、一般庶民には、一生解ける事のない謎で終わるだろう。
それもそのはずで、ちょっとお金持ちです、程度ではとても太刀打ちの出来ないような、各界のお偉いさん方の圧力がかかっている。
お偉いさん方の間では、その森のことを、シードと呼んでいる。
シードとは種のこと。
金と名誉があるところには、必ず黒い影が、悪が存在する。
そんなものから種を守るために、大きな木になるまで大切に育てるために、その為に森は存在する。
森、といっても、それは外から見た姿である。
幼等部、小等部、中等部、高等部、大学…ほぼすべての教育機関で構成される、超巨大学園。
それらが森の中心に存在する。
シード、種と名付けられた森の正体は、自らの後継者を、人の上に立って導く者を守り、育てるための施設。
教育機関の他にも、医療機関に始まり、交通機関、研究施設、商業施設、学生寮などからなる学園都市である。
今の季節は春。
桜の華は咲き誇り、世間は入学シーズンである。
あちこちで初々しい子供たちの笑い声が聞こえる。
空気も浮足立っているように思えた。
外界との交わりを絶ち、沈黙を保ってきた森にも、今日は少し慌ただしい動きがあった。
学園都市である森も、本日、入学式が行われる。
多くの将来有望な子供たちが、森を抜け、学園都市へと向かっていく。
そして、出会う。
彼らに。
ここから始まるものがたり。
彼らの、彼らによる、彼らのための、ものがたり。
彼らの世界へようこそ。