◇Milky way◇
□葛藤する一日
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初めての口吸いは歯の当たる痛いものとなった。
俺自身、自分が妻を娶る前に口吸いをするなど想像もしていなかったのだが…
…まさか未来に飛ばされて初めての口吸いをすることなど誰が想像出来ようか…。
涼姫殿…それが俺の初めての口吸いの相手となった方のお名前だ。
未来に飛ばされ、呆然となった俺の身を泣いて案じて下さった優しいお方。
すぐに笑って下さり、俺の為に朝餉を用意してくれた。
涼姫殿が暮らす世界の過去と俺達の暮らす戦国の世は似て非なる物らしい。
現に、未だお元気なお館様は俺が幼少の時に亡くなっているらしい。
その言葉を聞き、我が身の幸せを噛み締めた。
お館様の指南無しにこの幸村は有り得ない。
父亡き後、俺を一端の武士にさせて頂いた御恩、未だ返せてはいない。
だからこそ…俺は帰らねばならぬ。
お館様と佐助が待つ…戦国の世へ。
「ったく…よく寝てやがるなァ。」
政宗殿の声…?
未だ完全に覚醒しない頭に喝を入れ、目を開ける。
「よぉ、ようやくお目覚めか?真田幸村。」
「政宗殿…。」
目を開けると布団の上で胡座をかいて俺を見下ろす政宗殿と目が合った。
「おはようございます…政宗殿。」
「おう、……アンタ敵を前にして随分と余裕だな。」
ニヤリ、と笑う政宗殿。
その笑顔は手合わせをする前によくこちらに見せる物だった。
挑発的な…笑み。
その笑みを涼姫殿に向けた時は少し頭にきたが…涼姫殿は更に挑発的な笑みと、俺が知らない異国語を政宗殿に返していた。
それを返された瞬間…政宗殿の気配が変わった。
前田殿から煩い程に聞かされる言葉が何故か頭に降って来た。
「恋」
「政宗殿は……涼姫殿を好いているのか?」
「アンタも随分と破廉恥になったモンだねぇ。」
「はっ、破廉恥ではござらぬ!」
「HA!恋なんて破廉恥って言ってたじゃねぇか。
主が破廉恥じゃあの忍も大変だな。」
先刻の笑顔とは違う、俺をからかう為だけの笑顔。
恥ずかしさで俺の顔が熱い、きっと真っ赤なのだろう。
だから嫌なのだ。
こういった破廉恥な話題は…。
「ま、好いているっつーか…惚れてるな。アイツに。」
え?
政宗殿を顔を見ると…さっきまでの俺をからかう笑顔は消え去り、普段よりも真面目な表情で俺を見据えていた。