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□裏設定について
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★没ネタA★
『陽炎』の前世(笑)、『地球の涙』で出る予定だった人たち。
エレメンターについての場面。
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「え。ってことはもしや“エレメンター”?」
岳(がく)が尋ねるとフローは意味深に微笑んだ。
「マジ?! なになに、何属性?」
「何だと思う?」
フローは問い返す。岳と浅香(あさか)はフローのある点を見つめ、息ぴったりに答えた。
「『炎』」
「……君達、今私の髪型で判断したね?」
フローは反射的にゆらめき立つ菫色の髪を押さえた。
「え、違うの?」
「よく燃えてますよ」
ブハッ。岳の指摘に隣の浅香が吹き出した。フローは軽い頭痛を覚え、ひきつった笑みのまま固まる。
「頭部炎上」と自分で笑いのツボにハマる浅香と、内心カナリショックと見えるフローは置いといて、岳は改めて推察する。
(フォースなら、炎以外はイメージじゃないんだよなぁ…)
岳はフローの顔を見つめた。フローは短い時間でなんとか立ち直ったようだ。いつも人を試すような表情に戻っていた。
「う〜〜〜ん」
首を傾げた岳は、
「魔術使って」
お願いしてみる。
「それではバレてしまうじゃないか」
即却下。戒斗(かいと)が溜め息をついた。
「現存するエレメンターを知らんのか」
「え、戒斗君知ってんの?」
「…………」
戒斗はフローを見る。
「いや?」
「うわ、すっげ気になる」
ワケありの仕草をしたクセに知らばっくれる戒斗。
「師匠も知らなかったしなぁー」
「まあ、剣術バカではな」
戒斗は迅(しゅん)を思い浮かべて頷いた。
「えー、なんだー?」
難しい顔をする岳に、フローはふっと笑った。
「もうダメ。降参」
「姐さん、早っ!」
片手を挙げる浅香に岳がツッコむ。いつの間に笑いのツボから復帰していたようだ。フローは仕方ないというように答えを口にする。
「『雷』」
「……あぁ!!」
浅香と岳はポンと手を打つ。
「だから髪が……」
「違うから」
フローは手を振って「静電気による髪の逆立ち説」を否定した。
「どうしてそう君達は、私の髪ばかり気にするかな……」
「だって気になるもん。ねぇ」
浅香が同意を求めると岳はあっさり頷きかけ、慌てて弁解する。
「いや、真面目な話。エレメンターなんて見たことないからさ。だから勝手にイメージするしかないんだよ」
「なるほど……」
フローは顎に手をつき納得した。
「そうだ。エレメンターってさ、他の属性のことも把握してんの?」
岳が興味津々に尋ねた。
「例えば?」
「んー。今どのエレメンターがいるとか、どれくらい資格者がいるとか」
「全ては把握出来ないよ」
フローは苦笑した。
「なんとなく……だね。精霊がたまに教えてくれたりもする」
そう言ったフローの右肩に、パチッと音を立てて、精霊が姿を現す。淡い紫電を纏った精霊は、主の耳に囁く仕草をして消えた。
「“エレメンターネットワーク”とかあんのかと思った。月1の集会とか」
岳の言葉にフローは笑った。
「ないない。私達は互いを知らないことが多いんだ。それに今は存在するエレメンターが少ない」
「え。フローの他には?」
浅香が座りこみながら訊いた。
「『樹』……ぐらいかな。と言っても、彼女はまだ幼い」
「彼女?」
「『樹』属性のエレメンターは、代々ピアードの女王なんだ」
浅香の疑問に岳が答えた。
「あぁ、そういえば……クロードから聞いたかも」
「クロ……?」
戒斗と岳がピクリと反応する。フローは二人の反応を見て「ほぅ」と呟いた。
「あ、何でもない」
浅香は説明を避けた。しかし岳はそれを許さない。
「姐さん、前から気になってたんだけどさー」
岳はすすっと浅香の隣に移動し耳打ちする。
「そのクロードって人と何もなかった?」
「な、なに言ってんの?!」
浅香はバッと岳から離れる。
「……怪しい」
岳は半眼で浅香を見た。
「だーからー! クロードは私がココに来た時にお世話になった人! ただそれだけ!」
浅香はムキになって言った。
「君は……」
ふとフローは浅香を見つめて呟いた。それを察した戒斗がフローを睨む。
しかしもう遅い。フローは疑問を口にする。
「君は、この世界の人間か?」
「!!」
しまった、と浅香は思った。またやってしまった、とも。
《アスティア》のエレメンターについては、たとえ魔術を使う者でなくとも、常識範囲の知識である。幼い子供ならまだしも、浅香は17歳で、しかもフローの前では魔術を披露している。魔術は本来、魔術の原理──つまり精霊を理解していないと、扱うことは出来ない。
付け焼き刃の知識に加えて「ココに来た時」という失言。
浅香はフローの視線に耐えられずに戒斗を見た。
(そういえば戒斗、注意しなかったな。……諦めてる?)
それはそれで落ち込む。戒斗は仏頂面で重い溜め息をついた。
「まあ、汝に知れたところで何をする訳でもなかろう」
「ではやはり……」
戒斗は頷く。
「そのじゃじゃ馬娘は《月》の――いや《地球》の人間だ」
「……何でアンタって一言多いの?」
拳を握りながら浅香はツッコんだ。が、当事者は無視。
「《地球》?」
「我々が《月》と呼ぶ恒星はあちらでは《地球》と呼ぶらしい」
「……人が……いるのか」
フローは頭上の天体を見上げた。
「ただし、精霊も魔物も、妖魔もいない」
「…………」
この事実に対しフローはどう思うのだろう。浅香は純粋に気になった。沈黙が漂う。
「あの、さ……」
岳はフローに向き直った。
「アンタ、エレメンターなんだよな」
「あぁ」
「だったら姐さんを戻す方法――」
「無理だ」
岳に皆まで言わさずフローは断言した。
「なんで? 精霊を従えし者なら、雷なら次元関係の術だって……」
フローは首を横に振る。
「無理だ。私は“調停者”ではない」
「“調停者”?」
岳の問いに戒斗も不思議そうにフローを見た。
「『光』と『闇』だ」
フローは静かに答えた。
光と闇。この2つの属性を操れるのは各属性に1人だけである。つまり、必然的なエレメンター。
「それって……いんの?」
岳は絶望的に呟いた。
「いや」
フローは無情にも否定した。岳は黙り込む。
「フローとやら」
戒斗は岳の代わり、というように口を開いた。
「光と闇属性は、あちらとこちらを繋ぐ唯一の方法なのか?」
「……そう断言も出来ない」
フローは申し訳無さそうな顔をした。
「そう簡単にはいかないか……」
浅香は呟く。そんな浅香を見て岳はあぐらをかく。
「光と闇の存在自体滅多にないからなー。そもそもさ、いる意味あんの?」
頬杖をつきながら言う。
「エレメンター自体、存在意義が曖眛だし」
「確かに……。いてもいなくてもいいなんて、意味無さすぎよね」
浅香が同意した。
「まあ、エレメンターというのは魔王、魔女が君臨する以前と、消滅後にしか、完全には存在出来なかったからね。魔王らの監視下でエレメンターは大きな力は使用出来なかった。無力に近い状態だったんだよ」
魔王と魔女。
浅香は迅から教わった《アスティア》の歴史を引っ張り出す。確か10年前まで《アスティア》の4大属性の精霊を自らの支配下に置いた神の子だ。
「ちょっと待った」
浅香が記憶を反芻すると、岳が左手を前に出した。
「エレメンターってさ。昔はたくさんいたんだろ? なのに何で力を合わせて魔王達に反抗しなかったんだ?」
「だから、全精霊の支配権が魔王にあったからじゃないの?」
浅香は当然のことを言う岳に答える。
「いや、そりゃそうだけどさ。でもエレメンターには各属性の長がついてんじゃん? だったらさ、魔女の時代は規制があったから無理として、魔王の時代なら不意打ちとかでこう、ガァーって」
岳の言い分に戒斗は呆れ、浅香は納得し、フローは笑った。
「精霊の契約数で検討しよう。私は全精霊数を把握しているワケではないが、だいたいの四属性の各精霊数を一万とする」
そう言ってフローは、木の枝で地面に数を書きつけた。
「一万の内、一は長だ。エレメンターは長の許可で一時的に己の属性の全精霊を使えるが、普段は五千従えている」
「なんだ。意外と控え目」
浅香はコメントした。
「それに対し、魔王と魔女は……4属性以外は無差別に各六千使役出来たとされている。属性別の精霊数ではエレメンターに劣るが、彼らは少なくとも2属性以上の魔術を扱う」
「つまり、属性に関係なく、単純な精霊の総合数では、エレメンターに勝る……」
戒斗が結論を言い、フローはそれに頷いた。
「魔王ってスゲー」
思わず岳は呟いた。浅香も同意する。
「だから変な信者がいるワケねー」
「姐さん、ソレ聞かれたらマズいって」
魔王崇拝者を探してなんとなく辺りを見る岳。
「いたらヤバいなぁ。私達は彼らに憎まれているからね」
フローは困ったように微笑した。
「エレメンターが? あ、そっか」
浅香はその理由に気付く。
「精霊は神が人間に与えたモノ。つまり神の子である魔王達にもその所有権はあるということだ。それを一介の人間が、我がモノ顔で使用しているエレメンターが許せんとは……。それではエレメンターばかりか、全世界の魔術師も対象になるではないか。まったく物は言いよう、勝手な理屈だな。そもそも、その“神”に歯向かったのは誰だと思っている。自分達人間だぞ?」
腕を組んで戒斗は苛立だし気に語った。浅香と岳が「ジジくさ……」と小声で囁いた。
「呪術師なのに魔術師をかばうとは。ありがたい」
フローはニッコリと言った。戒斗はハッと息を吐く。
「誰がいつ、エレメンターをかばった。余はヤツらが気に食わないと言っただけだ」
「またまた戒斗君も〜。過激なこと言わないでさぁー」
「アンタはビビりすぎよ、岳」
「姐さんは知らないんだよ〜。アイツらの恐ろしさを、執念深さを〜〜!!」
からかう浅香に岳は身震いして見せた。
「まだ普通に神を崇拝してる信者のがいいね」
「啓真(けいま)さん?」
「あぁ、うん」
浅香が穏やかな人相の枢櫃教名を出す。岳はそれと連想させ、その弟子である双子の姉弟を思い出してしまう。
「あう……やっぱ訂正。アイツらも充分怖い。別の意味で」
恐怖体験が蘇り、岳は悪感を覚えた。
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岳は『陽炎』でいうハーネルのポジだなぁ(笑)
フローは脇キャラですが、いずれ『陽炎』にも出したいと思っています。