橙色の時計
□心の足長おじさん
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わたしが高校生だった頃‥心が重くて辛かった頃‥。
駅のホームの待合室にいると、向かいの椅子に腰かけたおじさんが、話しかけてきた。
「この座布団、いいね。あったかくて‥」
それは、地元の家政科の高校生が作って、置いてくれたもの。
「そうですね!」
紳士的な、品のいい、おじさん。
にこにこしながら、腰かけていた。
それが、おじさんとの出逢いだった。
わたしが特に落ち込んでいた日‥そんな日に、必ず現れて、にこにこと話しかけてくれた。
待合室にいた、わたしを見つけては、窓からぽん、と肩をたたいて微笑んでくれる。
わたしを見つけてくれることと、優しく微笑みかけてくれることに、心が温まってくるのを感じた。
そのうち、おじさんは、ホームの自販機で、甘い缶コーヒーを買って、わたしに手渡してくれるようになった。
「いつも、すみません‥いただきます」
心まで潤ってくるようで、本当に嬉しかった。
楽しくない学校のことや、家庭の問題に傷ついて、埋めることのできない心が、おじさんといる時だけは、ほっとした。
三年生になって、クラスにも担任の先生にも恵まれ、大分、気持ちが楽になった頃から‥おじさんは、姿を見せなくなった。
今でも時々、思う。
「おじさんは、天からの使者だったのかな‥」と。