○オーナーと一緒シリーズ

□名前を呼んで。
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『も・と・ち・か』


『モ、チカ』


『だから、も・と・ち・か!ほら、謂ってみろよ』


『モト、チィー』


『ああ!惜しい!元親だって、もとちか!!!』


『………其方、先程から何をやって居る』


『うお!元就さん!!!!!!!!』


『ウオー』




バイト中、珍しく客の少ない午後
仕事も片付けちまった俺は、暇を持て余しちまって
最近入荷したオウムが、『イラッシャイマセ』とか喋るモンだから面白くなっちまってさ
物は試しだと思い、一生懸命自分の名前を呼ばせようと奮闘してた訳なんだけどよ
まさか、倉庫から元就さんが戻って来て居た事に気付くかねェなんて……
畜生、迂闊だった。





『いや、あの、その…』


『どうした、遂に馬鹿に成ったか。哀れな男よ』





しどろもどろに成っている俺を一瞥して、ふん、と鼻で笑うオーナー
いや、まァ、馬鹿ってのは否定しねェけどさァ……
怒られんじゃねェかってびくびくしてた俺を尻目に、唇を歪めて元就さんが笑った
何時も思うけど、此の人の笑った顔ってすげェ鬼畜臭ェ。





『長曾我部』


『へ?!あ、はい!』


『なぜ、オウムが喋れるのか知っているか』


『え、否…知らないっス…』


『だろうな』





そう謂って、元就さんはオウムの首辺りを細っこい指でそっと掻いてやりながら
俺を見て、またにいやりと笑って、さ
当のオウムと謂えば、黄色い羽毛をふわっふわにして気持ち良さそうに目を細めた





『オウムと謂うのはだな、舌と喉の構造が人間と似ておるのだ』


『はぁ…』


『其れ故、人と同じ様な声が出せると謂う訳だ』


『元就さん、博学っスね』


『当たり前だ。誰に向かって口を聞いておる、長曾我部』


『う…、すんません…』





一通りオウムを愛でた後、小さく謝った俺を見て、元就さんが少し考えた様に黙る
……地味な沈黙が居心地悪ィ……
暫くして、切れ長の瞳で見詰められて、身動きの出来なくなった俺に
元就さんは、精々頑張れ、と一言残して再び奥に引っ込んじまった

俺は、解放された様にこっそり溜息一つ







( オウムにはあんなに優しい顔すんのになァ… )







そんな事を思いつつ、オウムを見れば
元就さんの指が離れていったのが名残惜しいのか、クチバシをカチカチ鳴らして
止まり木の上を、行ったり来たりしてやがる
代わりに首の付け根をわしわし掻いてやれば、気持ち良さそうに一声鳴いた













『元就さん!元就さん!!!!』


『何だ、騒々しい』





倉庫のドアを勢い良く開いて
入荷品のチェックをしていた元就さんに駆け寄れば、怪訝な目で睨まれた
嗚呼、でも、そんな事気にしちゃ要られねェ






『元就さん、喋った!』


『当たり前だ、我は人間ぞ。莫迦にしておるのか』


『違…!そうじゃ無くって!取り合えず来て下さいよ!』






強引に手を引いて店内に戻り、オウムの元へと急いだは良いものの
いざ、オウムの前にくれば、コイツが俺の顔見てアホみたいに鳴き喚きやがる
其れを宥めすかそうとする俺を見て、元就さんが思いっ切り嫌そうな雰囲気を醸し出してて
其の負のオーラに、ちょっと挫けそうに成る俺、17歳





『と、取り合えず、元就さん、ちゃんと聞いてて下さいね?!』





やっとこさオウムを落ち着かせて、元就さんにそう謂えば
無理矢理引っ張ってきちまって、かなり怒ってんじゃねェかって思ってたから
解った、と小さく頷いてくれた元就さんに少し安心して、目の前のオウムに向かって口を開いた








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