●小話

□此の花言葉を君に。
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『松寿丸』





不意に背後から声を掛けられ、其方を見やる
幼い声の主は、知れた事
視界に入るは、淡い紅色の着物に身を包んだ銀髪の彼
そっと目を細めて、緩やかに微笑んで
そうして、其の白い手で我の手を軽く握った







『どうかしたのですか』



『松寿丸、千翁ね、松寿丸と一緒に遊びたいの』



『我と遊びたい、と?』



『うん。ね、お庭に行こう。松寿丸のお城の庭には、綺麗なお花が沢山あるのだもの』



『ええ、では其の様に』








そう謂ってやれば、至極嬉しそうに笑みを零すものだから
握られた儘の手を引いて、庭へと誘う
彼は大人しく其れに従い、半歩後ろを歩きながら
今はどんな花が咲いて居るのだろう、とか
好きな花は何だ、とか
そんな他愛の無い事を訪ねて来るものだから、何だか自然と笑みが零れた









『今の時期は、桔梗や撫子が咲いております。其れと、藤袴も。我は桔梗が一番好きですが』



『松寿丸のお庭にも咲いてる?』



『ええ、沢山』



『お庭、早く見たいな』



『焦らずとも、もう直ぐ着きますよ』










暫くして、秋風と共に僅かな芳香が漂い始め
視界に広がるは、花景色
桔梗も、撫子も、藤袴も、十月桜も
他にも沢山、沢山、沢山

気に入りましたか、と隣の彼に声を掛ければ
僅かに頬を染め上げて、とても素敵、と頷いた








『松寿丸、松寿丸が好きな桔梗も沢山咲いてる』



『ええ』



『綺麗だね、とても綺麗』








そう呟いた後
緩く微笑んで、彼の白い指がそっと桔梗の花弁を撫でる
慈しむ様に、優しく優しく




其の指先の動きに、何故だか酷く胸が高鳴った







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