●小話

□冷たい男
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冷たい目だ、と思った
総てを見下した様な、凄く嫌な目だと、そう思った



端正な顔は、感情を露にする事が無い
何も信頼せず
誰も寄せ付けず
自ら好んで、孤独の中に漂って居る様な、そんな感じ





身体を重ねた事は、何度と無く有った
其れも、御互い同意の上、と謂うよりかは
ほぼ無理矢理、と謂った方が正しいのだろうが


熱く成った身体とは裏腹に、俺に触れる指先は酷く冷たくて
特別な感情も、優しい言葉も、そんなもの有る筈も無くて
情事の最中でさえ、掛けられる言葉は罵声
どんな時でさえ、俺を見る瞳は、汚い物でも見るかの様に歪んで居て
口許には、嘲る様な笑み一つ









愛だの恋だの、そんな甘ったるいものなんて何一つ無かった



アンタに、優しく名前を呼ばれた事も
唇を重ねられる事も
俺が、アンタの事を愛しいと思った事も
そんな事、何一つ無かった












俺の目の前に横たわるアンタは、酷く小さく見えて
何時も小奇麗な顔が、泥と、アンタ自身の赤で無残に汚れて居た

俺を蔑む様に捉えていた瞳は、閉じられて
其の薄い目蓋も、長い睫毛も
二度と開かれる事は無い





己の手に掛けた、此の冷たい男を見下ろして
碇槍を握った指先が、段々と冷えて行くのを感じた





少なからず、床を共にした間柄だった
でも、其れだけの関係で。

其れだけの関係でも、一度だけ
アンタは、俺が眠っているモンだと思っていたのか
ただ一度だけ、驚く程優しく髪を梳かれた事があったんだ





本当に、ただ一度だけ、だったけれど









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