●小話

□好きだと謂わない唇
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好きだと謂って貰った事なんて無い
でも、時折髪を優しく梳いてくれる


好きだと謂って貰った事なんて無い
でも、二人きりの時は傍に寄っても許してくれる


好きだと謂って貰った事なんて無い
でも、でも










『なァ、元就』



『…何だ』



『お前って無口だよなァ』



『貴様に話す事など無いからな』



『何だよ、何時も其ればっかじゃねェか』



『ふん…不満ならばさっさと帰れ』



『は、帰られたら寂しい癖に良く謂うぜ』



『いい加減、其の詰まらぬ口を閉じろ。さも無くば出て行け』



『…へいへい』








嗚呼、何時もこうだ
俺と元就との間に、会話なんて成立しやしない
二人きりの時だったとしても、奴は甘い言葉なんて掛けてくれはしない
俺がどんなに声を掛けたって、大抵は生返事か突っ撥ねる様な言葉しか返ってこなくて
正直な所、本当に俺とコイツは恋仲なのかって疑っちまいそうなくらい素っ気無ェんだ





嗚呼、でも。でもさ。





口調は冷たいけれど、少しだけ傍に寄っても嫌な顔はしなくって
其れ所か、細い指先で驚いちまうくらい優しく髪を梳いてくれる事もあって
たまにだけど、さり気無く頬を撫でてくれるから



だから、何だかんだで離れられやしなくて
俺は、冷たい筈の瞳が僅かに和らぐ瞬間も知っていて
決して言葉には出さないけれど、不器用で拙い優しさに触れてしまえば、其れを手放す事も出来なくなっちまうんだ















好きだと謂って貰った事なんて無い
でも、時折髪を優しく梳いてくれる


好きだと謂って貰った事なんて無い
でも、二人きりの時は傍に寄っても許してくれる


好きだと謂って貰った事なんて無い
でも、でも










『元就』










不意に名前を呼べば

好きだと謂ってくれない唇が、酷く優しい口付けを落としてくれる事を俺は知っているから












( 此れ以上を望んだら、罰が当たりそうだ )













此の口付けが終ったら

一生分の好きを、お前に謂ってやろうと思った。















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