replicant.

□Shimmer.
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あの惨劇の村を後にして、早一日が経とうとしていた。

灼熱の太陽は、オレ達の真上でジリジリと照り付ける。

オレの視線の先には、あの村で渡された半欠けのコインが入ったケース。

ケースの意味は何だ。

あの女は“招待状”と言っていたが…。

答えは見えない、堂々巡りだ。

行き止まらない思考は、苛立ちを覚えるだけでしかない。

心無しか、早くなる歩調。

踏み出す度、小気味良い音が鼓膜を叩く。

体力の消耗と敵襲を防ぐ為、時折現れる砂丘を避け進む。

顔を上げれば何処かしこも砂、砂、砂ばかり。

稀に見える木は、水分を奪われ枯木と化し、生きているとは言えない。

足元では、小さな蟻地獄に蟻が餌食。

運良く成虫になれたとしても、三日の命。

呆れるくらい変わらない景色には目もくれず、歩き続ける。

それ程遠くない距離に現れた巨大な岩陰は、砂漠の見せる幻かと目を疑う。

歩を進めれば、先程見えた岩陰が幻でない事が分かる。

岩陰に着くと、足を止めた。

そのまま冷えた岩に腰を下ろす。

「おい」

乾いた空気が頬を撫でた。

それは、清涼感を得ると言うより熱を帯び、気持ちが悪い。

「トラファルガー」

更に暑苦しい事に、オレの背後には赤が付いて回る。

喧しい事この上無い。

「聞いてんのか」

水の無い砂漠で口を開く程、愚かじゃないだろうが。

「…五月蝿い、オレに命令するな」

今、猛烈に殴ってやりたい。

この欝陶しい男を。

だが、一日一善がある以上、迂闊に危害を加える訳にはいかないのは確か。

「ありゃ、何だ?」

今度は何だ。

今要らないのは、お前のその五月蝿い口だ。

「消されたい、のか…?」

顔を上げ、指の指す先…遥か数km程先を眺める。

オレは目が釘付けになった。

そこで目にしたのは、陽炎。

否、とてつもなく巨大な火柱。

だが、数秒後にはそれは何事も無かったかの様に消え失せていた。
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